2023年1月30日(月)

中東を読み解く

2019年7月11日

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戦争防ぐ防波堤

 イランは制裁により経済が悪化、国民の生活はギリギリまで追い詰められている。イラン経済を支えてきた石油の輸出は、米国が核合意から離脱する直前の2018年4月には、約250万バレル(日量)だったが、現在は約30万バレル(同)まで急減、物価高騰、失業率の増加、通貨リアルの下落の三重苦にあえいでいる。

 局面の打開を狙ったイランは濃縮度3.67%以下に抑えられていた低濃縮ウランの貯蔵量300キロという上限を取り払い、さらに濃縮度も合意の枠内を超えて4.5%まで高めた。イランは核合意の当事者である英独仏の3カ国が、制裁によって被った喪失をイランに補填をしなければ、さらに濃縮度を20%まで高めるかもしれないと脅しを掛けている。

 核爆弾1個を製造するためには、濃縮度約90%のウランが約25キロ以上必要だ。濃縮度5%のウランは原子炉用、20%のウランは医療用アイソトープに利用される。しかし、濃縮度20%のウランを生産できれば、容易に90%の高濃縮ウランを生産できるとされる。核爆弾製造にはなお、1年以上必要としても、イランの動きが深刻な脅威であるのは確か。

 こうしたイランの一か八かの“瀬戸際戦術”に対し、ペンス副大統領は8日、「米国の自制を決意の欠如と取り違えてはならない。米軍は米国の権益や米国民を守る準備を整えている」と述べ、軍事行動も辞さない姿勢を鮮明にした。これに先立ち、トランプ大統領も「気を付けろ」とイランに捨て台詞を吐き、いつでも、イランに対する軍事攻撃に出れることを仄めかした。

 ここで気になるのは、対イラン強硬派のポンペオ国務長官の一連の発言だ。長官はアフガニスタン・カブールで最近起きたテロ事件の背後にイランが介在していると非難、また10日には「イランが国際テロ組織アルカイダとつながりがあるのは明白だ」と上院外交委員会で証言した。

 ポンペオ長官はこのつながりについての具体的な証拠は示さなかったが、トランプ政権の対応は2003年の米軍のイラク侵攻前夜に酷似してきたように見える。当時のブッシュ政権はイラクに大量破壊兵器があるとの偽情報に踊らされてイラクに侵攻した。

 侵攻の理由の1つは時のサダム・フセイン政権がアルカイダの幹部とつながっているという主張だった。その幹部とはISの前身である「イラクのアルカイダ」を創設したヨルダン人のアブムサウイ・ザルカウイだったが、実際はフセイン政権とは全く関係がなかった。

 ポンペオ長官のイランがアルカイダとつながりがあるという発言はイラク戦争前夜の米当局者の発言を彷彿させる。無理やりイランと結びつけるような試みには「戦争の糸口を探っている」(ベイルート筋)という見方もある。

 ポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官らの対イラン主戦論者の勢いが増しているかのようだが、防波堤として大きく立ちはだかっているのは実はトランプ大統領だ。戦争になれば、最優先課題の再選が危うくなりかねないからだ。皮肉にも米国の戦争を押しとどめているのは、イラン核合意から脱退し、今回の危機を作ったトランプ氏なのだ。

  
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