ホルムズ海峡付近でのタンカー攻撃をめぐり、米国とイランの緊張はさらに高まりを見せてきた。米国が日欧など同盟国との「有志連合艦隊」創設を模索し、国際的包囲網を一段と強化する姿勢を見せる一方、イランは6月17日、核兵器製造が容易になる高濃縮ウラン生産も辞さない構えを示した。“巨大なチキンゲーム”(ニューヨーク・タイムズ)の行方はどうなるのか。
躍起の米に踊らぬ同盟国
トランプ政権は日本の国華産業のタンカーなどが何者かに攻撃されて以来、イランの革命防衛隊の犯行として、タンカーから機雷の除去作業をする“防衛隊の小型船”の写真などの証拠を公表した。だが、世界的な反応は「証拠不十分」(アナリスト)と冷ややかさが目立つ。
このためポンペオ国務長官が同盟国の外相らに電話をかけまくり、躍起になって説得工作を開始した。同時に、長官は週末の報道番組に相次いで出演し、イランの犯行であることが間違いないこと、軍事力行使を含むあらゆる手段を検討している点を強調し、米世論に政権の主張の正当性を訴えた。
長官はさらに、5月末にアフガニスタン・カブールで発生し、米兵4人が負傷したテロ事件の背後にイランが介在していたと非難するとともに、ペルシャ湾で6月に2回、米国のドローン(無人機)がイランないしは、イラン支援のイエメンの反政府勢力フーシ派によるミサイル攻撃を受けたと明らかにした。
長官はこうしたイランの脅威を指摘した上で「国際社会への挑戦だ。全世界にとって重要だ」として、米国だけの問題ではないことを強調、国際社会が共同で立ち向かうべきだとの考えを示した。米紙はトランプ政権がホルムズ海峡を守る「有志国連合艦隊」の創設を模索していると指摘している。
米紙によると、ジョン・カービー米海軍元提督はシーレーンを防衛し、イランの活動を24時間監視するのは「米単独では対応できない。“連合”が必要だ」と語った。米国は過激派組織「イスラム国」(IS)に対する有志連合や、ソマリア沖の海賊護衛の国際的な取り組みを想定しているようだが、同盟国は踊りそうもない。
輸入原油の80%をペルシャ湾に依存している中国は米国と経済戦争で衝突しているし、ロシアも対米関係は最悪な状態。協力を得られる見通しは全くない。日本やドイツなどの同盟国も「イランがやったという、より明確な証拠が必要」と消極的。菅官房長官はイランの関与について「予断を持って答えるのは控える」と慎重だ。米国のイラン犯人説を支持しているのは、サウジアラビアやイスラエル、そして英国ぐらいのものだ。
しかし、タンカー攻撃が再発すれば、米国の求めをむげに拒否することはできまい。なんといっても、中国同様、日本の輸入原油の約85%がホルムズ海峡を通って入ってきており、トランプ大統領が出てきて「一番恩恵を受けているのは日本だ」と迫る場合も想定しておかなければならない。湾岸戦争の際、貢献が小さいとして世界からバッシングにあった悪夢を繰り返すわけにはいかない。賢い対応が必要だ。