2024年11月22日(金)

中東を読み解く

2019年6月18日

瀬戸際戦術に走るイラン

 こうした中、イランは強硬策を打ち出した。イラン原子力庁は17日、核合意が守られていないことを理由に、低濃縮ウランの貯蔵量が合意で定められた上限を10日後の27日に超過すると発表した上、7月上旬以降、濃縮度を核兵器のウラン製造が容易になる20%まで高める選択肢もあると警告した。イランが、この路線を進めば、理論的には1年弱で核爆弾を保有することができるようになる。

 イラン核合意では、イランが濃縮できるのは濃縮度3.67%の低濃縮ウランで、貯蔵量は300キロを超えない範囲で認められている。イランのこの決定は核合意を維持している英独仏3カ国に対し、米国の制裁を回避して石油を輸出できる仕組み「貿易取引支援機関」(INSTEX)を早期に稼働させるのが狙い。

 ロウハニ大統領は5月8日、60日以内に欧州がイランへの経済支援策をまとめるよう最後通告を突きつけており、欧州がまとめられなければ、核合意を破棄して核開発をすると警告している。イランがこうした「瀬戸際戦術」を取っているのは、制裁で経済的に追い詰められ、二進も三進もいかなくなっている焦りを示すものでもある。

 なんとか支持拡大を図りたいトランプ政権は25、26の両日、ペルシャ湾のバーレーンで開催される「パレスチナ経済支援サミット」会議の場で、反イラン包囲網を固めることを計画している。同会議は元々、トランプ氏が「世紀の取引」と売り込む中東和平提案の経済分野を公表し、パレスチナへの経済援助を引き出すために開催されるものだ。だが、イラン危機が激化した今、より緊急な課題は対イラン包囲網の構築だ。会議に先立ち、米国はイラン対応のため、1000人の兵力をペルシャ湾に増派した。

 米国のがむしゃらな対イラン強硬方針により、欧州には、大量破壊兵器保有の確固たる証拠のないままイラクに侵攻した「イラク戦争の前夜に似てきた」(アナリスト)との見方が強まっている。ホルムズ海峡の安全航行と、イランの核保有阻止という2つの問題にトランプ大統領がどう決断を下すのか、残された時間は少ない。

  
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