チャイナ・ウォッチャーの視点

2019年12月27日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 2つ目は、南シナ海のコントロールだろう。中国にとって南シナ海は、複数の重要な意義を持った海域である。その第一は、米国に対する核抑止だ。戦略原潜から発射される弾道ミサイル(SLBM)は、核抑止の最終的な保証とも言える。それは、潜水艦の隠密性ゆえに、敵の第一撃後に残存する可能性が高いからだ。米国の核攻撃に対する抑止である。

第一列島線を越えなければSLBMが届かない

 その中国の戦略原潜は海南島に配備されており、バシー海峡等を抜けて太平洋で戦略パトロールを行う。現在、中国海軍の戦略原潜が搭載しているSLBMは、巨浪2(JL-2)およびその改良型であるJL-2Aである。これらの射程は6000キロメートルおよび8000キロメートルであるとされ、それぞれ094型潜水艦および094A型潜水艦に搭載される。南シナ海から撃ったのでは、米国本土をカバーできないのだ。それゆえ、中国の戦略原潜は、第一列島線を越えなければならないのである。

 米国にとって、自由に米国本土に対して核攻撃できる中国の戦略原潜の存在は許容できない。最も確実に潜水艦を追尾し続ける方法は、出港時から追尾することである。中国の戦略原潜が三亜基地を出港するのを探知できれば、その後は、米海軍の攻撃型原潜が全航程を追尾できる。そうなれば、中国の戦略原潜は核抑止としての効果を失う。これを中国が受け入れる訳にはいかない。中国は、戦略原潜が米海軍の探知を回避して太平洋に出られるよう、南シナ海から米海軍の活動を排除したいと考える。

南シナ海は、米中の核抑止攻防の最前線

 南シナ海は、米国と中国が核抑止を巡って攻防を繰り広げる海域なのである。米中両国はともにエスカレーション・ラダーを降りる訳にはいかない。中国海軍は、さらに新型の096型戦略原潜の開発を終え、3隻を建造中であるとも、すでに1隻を進水させたとも言われる。096型潜水艦には、やはり新型のSLBMであるJL-3を搭載すべく、この開発を進めている。

 米国メディアは、2019年12月24日、米国防総省高官の話として、同月22日に中国海軍がJL-3の発射実験を行ったと報じた。今回のJL-3発射実験は過去2年間で4回目となる。JL-3は、射程1万2000キロメートルとも言われ、最大10個の核弾頭を搭載できる。096型潜水艦は、太平洋に出ることなく、南シナ海から、搭載するJL-3で米国本土をカバーすることができる。

 096型潜水艦は静粛性も向上しており、中国はより効果的な対米核抑止能力を手に入れることになる。今度は、これを米国が受け入れられないだろう。中国が、南シナ海における米海軍の活動がより活発化すると考え危機感を強めていることも、「山東」が海南島に配備されたことに関係しているかもしれない。

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