チャイナ・ウォッチャーの視点

2019年12月27日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

なぜ、急きょ「南」に配置したのか?

 では、なぜ中国海軍は直ちに空母を南に配置したいと考えたのだろうか。南海艦隊に所属する空母打撃群の任務は大きく3つあると考えられる。

 1つは、一帯一路構想に基づく経済活動および海上輸送を保護するために、インド洋から西の海域において軍事プレゼンスを示すことである。2012年9月に「遼寧」が就役した際、中国は、「空母外交」を展開すると宣言している。

 2014年8月に中国メディアが報じた記事は、訪中したヘーゲル米国防長官(当時)が「遼寧」を視察したり、グリナート米海軍作戦部長が「遼寧」の米国訪問を歓迎する発言をしたりしたことを受け、「わが国の『空母外交』時代の扉が正に今開かれた。それは必ずや国家の外交において重大かつ積極的な作用を発揮するであろう」と誇らしげに語っている。

 また、同記事は、2020年には、中国の海外資産規模は1兆米ドルを超え、海外の華人華僑は5000万人を超え、彼らが持つ流動資産は総額2兆米ドルを超えるとし、「海外『華人経済』が正に今形成されている」という。その上で、強大な戦力を持つ空母艦隊は、華人が投資する地域や駐在する国の対中関係を改善し、反中や中国排斥といった事象の出現を回避するのに有効な手段であるとする。

 中国は、中東などの地域において、空母を用いて軍事プレゼンスを示し、沿岸国等に対して影響力を行使することによって、中国の経済活動を有利に展開しようというのだ。軍事力によって相手国に圧力をかけ、中国の意に沿うように行動させるという意味にもとれる。

 さらに中国では、中国の空母外交が米中新型大国関係の構築を助けるといった論調も見られた。それまで米国と中国が新型大国関係を築けなかったのは、中国の核兵器と空母が不足していたからだとも言われた。中国が、十分な核兵器と空母を保有して初めて米国に対中軍事力行使を思い止まらせることができるという意味である。中国はパワーバランスの信奉者なのだ。

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