2024年11月22日(金)

中国 覇権への躓き

2020年5月1日

 中国の一部メディアが報じてきた、指導部の対処策からは一見、「党政軍民学、東西南北中、党が全てを領導する」という、一元的な政治を貫こうとする力強い指導部の姿が見えてくる。しかし同時に、統治の正統性を獲得するために指導部は、多元化する社会に対して受動的な立場に追い込まれている姿もまた鮮明である。

「一省救一国」の
医療支援を行う

 新型コロナ問題において、指導部は国際世論とも向き合っている。

 歴代の指導部は、これまで、プロレタリア文化大革命、そして天安門事件という国内政策の失敗によって失った支持を取り返すために、そして東欧諸国の民主化とソビエト連邦の解体という圧力に対抗するために、市場経済化し、経済発展の道を選択した。かつてフランシス・フクヤマが述べたように、「21世紀初頭には、自由な民主主義こそが、政体の既定値(デフォルト)としての形態」であると人々は受け止めていた。

 習指導部は、そうした理解を払拭(ふっしょく)し、「自由な民主主義」と並ぶ政体として、共産党による一党支配の存在を内外に示そうとしている。むろん、そうした外交戦は国内世論を意識している。「統治の正統性」問題に跳ね返る。

 例えば、新型コロナの通称をめぐる論争のなかで、指導部は「武漢ウイルス」といった中国を連想させる言葉を使用することに強く反発している。また、米ウォール・ストリート・ジャーナルが18世紀後半に中国に対して使われていた蔑称「東亜病夫」を用いた際も中国外交部は強く批判した。

 それは中国の弱さを連想させる表現が、「中華民族の偉大な復興」というイメージを損なうからだけではない。ディスコース・パワーといわれる「話語権」をめぐる競争の一環だからである。「話語権」は「大きな声で主張する」意味の「発言権」ではなく、自らの主張を相手に受け入れさせる力(パワー)である。「話語権」は習指導部の外交の重要なキーワードである。

 ここにも歴代指導部との違いが見える。歴代指導部の外交方針の核心は、自国の経済成長に必要な国際環境の構築であった。そのために、WTOをはじめとするグローバル・エコノミーを支える既存の制度への参入に注力し、また国際秩序における覇権的地位にある米国との安定した関係の構築に尽力してきた。

 習指導部の外交は、自国の発展のために国際的な資源(技術や資金)を国内に取り入れるための外交から、自らの資源を国外に投射する外交へと変化している。そして既存の国際秩序に参入するための外交から、自らにとって有利な秩序を形成するための外交を行っている。その具体的な取り組みが「一帯一路」イニシアチブの展開であり、「人類運命共同体」の構築である。それらは「話語権」の強化のための外交に他ならない。


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