「宿泊業は従業員を90%カットし、自動車販売店や飲食店も50~70%の人員を削減した」。米連邦準備理事会(FRB)が4月15日に公表した地区連銀経済報告(ベージュブック)に、セントルイス連銀はそんな状況を寄せた。歴史の教科書でしか見たことのない大恐慌の光景である。
今回のコロナ不況は2008年のリーマン・ショックははるかに超えた。景気落ち込みはウォール街の暴落に端を発した「1930年代の大恐慌に匹敵する」。現在の世界経済を国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事は、そう表現する。
今回は影響を免れる国などない。観光業、旅行業、ホスピタリティ産業、娯楽産業などに成長を依存している国々は、とりわけ大きな打撃を受けている。
仮にコロナの世界的流行が2020年後半に収まっても、20年を通して世界経済は前年比3.0%減少の見込みだ。IMFは4月14日にこんな見通しを示した。21年には5.8%のプラス成長に戻る見通しだが、これは20年に大幅に落ち込んだ反動に過ぎない。
実額で説明しよう。20年、21年の2年間で、世界経済はコロナ禍により合わせて9兆ドルを失うことになる。円換算で1000兆円近い所得の喪失。それは日本とドイツの国内総生産(GDP)の合計額が失われたことに匹敵する。
何よりも雇用の喪失が大きい。米国の新規失業保険の申請者数は、コロナ禍の影響が本格化した3月半ば以来の5週間の合計で2650万件にのぼった。米国の労働力人口は1.6億人あまりだから、6人に1人がコロナで職を失った勘定となる。
失業者増加、米国の大規模経済支援
「ロックダウン(都市封鎖)不況」。今回の急速な景気悪化はそう呼ばれる。コロナとの戦争に際し、各国政府が外出禁止や移動制限などで経済に急ブレーキを踏まざるを得なかったからだ。工場が止まり、街の商店が閉ざされれば、生産は激減し、消費も落ち込む。
米国のGDPは今年、5.9%減る見込みだが、もっと深刻なのは経済基盤の弱い欧州だ。イタリアは9.1%減、スペインは8.0%減が見込まれる。いずれもIMF予測だが、スペイン中央銀行は外出制限がさらに4週間延びれば、マイナス12.4%になるという。
大恐慌の再来を織り込むかのように、4月20日の国際商品市場で異変が起きた。米国産原油WTI(ウエストテキサス・インターミディエート)先物の相場が一時、1バレル当たりマイナス40ドルを記録したのだ。原油価格がマイナスを記録するのは空前絶後。
航空会社は次々と運航ストップとなり、ヒトとモノの動きが止まる。生産も急減するなどコロナ禍による原油需要の急減で、貯蔵施設が足りなくなり、在庫の置き場がなくなったからだ。原油はお金を払ってでも引き取ってもらいたい厄介者になったのである。
ロックダウン不況に対して、世界各国は財政・金融政策でアクセルを踏んでいる。なかでも実勢の失業率が10%を超えた米国は、雇用崩壊を防ぐために合わせて3兆ドル(約320兆円)近くの財政出動に踏み切った。
4月24日に成立した第4弾の経済対策の規模は4840億ドルで、柱は従業員500人以下の中小企業への資金支援だ。具体的にいえば、中小企業の給与支払いの面倒を、国が見るのである。
すでに3月27日に成立した第3弾の経済対策では、中小企業の給与支払いのための3500億ドルを盛り込んでいる。今回の第4弾ではさらに3100億ドルを追加し、合わせて6600億ドル、円換算で70兆円あまりを給与支払いに投入するのである。
中小企業への融資という形をとっているが、実際は現金給付といってよい。6月末まで従業員の雇用を維持すれば、運転資金の8週間分は返済が不要になるからだ。4月3日から受け付けを始めたところ、中小企業からの申し込みが殺到し、わずか2週間で3500億ドルの資金を使い切った。
全米で166万社が融資を受けられたが、対象となる企業は約500万社にのぼる。融資が届いていない中小企業にも支援の手を差し伸べるために、追加支援を用意したのである。資金支援の合計額の6600億ドルは、対象企業の8週間分の資金需要である7500億ドル(米ゴールドマン・サックス試算)の9割近くをカバーする。