2024年12月9日(月)

WEDGE REPORT

2016年10月8日

 フィリップスというメーカーについて、どのようなイメージをお持ちだろうか? 欧州サッカー好きならば、ユニフォームのメインスポンサー企業のロゴなどで見かけるから、オランダのメーカーということはおなじみだろう。また、B to Bの分野に知見がある人なら医療機器やLEDを、一般コンシューマーならB to Cの分野で電動歯ブラシや回転式シェーバーなどを作るメーカーだということは、漠然とイメージできるかもしれない。

ライティング事業を株式公開した理由

 同社は現在言わずと知れた世界の三本指に数えられるヘルスケアメーカーである。“イノベーション アンド ユー”というコーポレートスローガンを元に、時代に合わせて、人々が有する不満や課題をテクノロジーの力で解決してきた。そのルーツは1891年に遡る。オランダはアイントホーフェンで、白熱電球の量産などからスタートし、その後さまざまな分野へと業態を広げ、現在は特にヘルスケア市場に傾注している。

 そのルーツを引き継いでいるはずのライティング事業をこの5月に新規株式公開した。1891年から同社を牽引し、世界ナンバー1のシェアを持つまで押し上げた事業にも関わらず、だ。この意味するところはなんなのか? 一言で言えば、ヘルスケア事業で世界を穫るための覚悟の表れである。今後、より大きなイノベーションが重要で、より大きな収益が見込めるヘルスケア事業に資本を集中的に投下し、次世代へとビジネスを橋渡しするための決断であった。

 この8月にアイントホーフェン市街地にある同社のミュージアムを訪れた。そこには1891年からの125年の軌跡がすべて収められ、時代に応じてイノベーションを巻き起こしたさまざまなプロダクトが所狭しと並んでいた。だが、この5月にオープンしたばかりだという同社の創立125年を記念したスペースを見て驚愕した。メーカーのミュージアムにも関わらず、いわゆるプロダクトであるハードウェアがひとつも並んでいなかったからだ。

 時代は変わった。猫も杓子もビッグデータである。グローバルスタンダードでトップを目指す企業は、消費者ニーズからダイレクトに集金するプラットフォーム作りに躍起になっている。特に米国系の企業のこの方向への動きは著しい。AppleはスマートフォンやiTunes、iCloudなどを軸に、googleはインターネット検索という情報取得を軸に、Amazonはインターネット上での小売りを軸に、それぞれエコシステムを形成。各分野のビッグデータを集約するプラットフォームを構築し、各界のナンバー1の座を確立している。

アイロボットもビッグデータを活用

 この8月に来日した自動ロボット掃除機ルンバなどで有名なアイロボットのコリン・アングルCEOも、筆者が取りまとめた某誌インタビューで、「アイロボットは住宅内のマッピングデータを集めることで、住宅をスマートホーム化するとともに、そのビッグデータを活用して、未来のビジネスを推進していく」と宣言していた。その覚悟の表れか、創業からアイロボットを支え続けた防衛事業をやはり独立させ、今後はB to Cの家電事業やスマートホーム事業に資本を集中的に投下する方向にビジネスモデルをシフトした。

 ビッグデータを制する者が世界を制す。今後、ビジネス界でグローバルスタンダードのトップ企業を目指すうえで、プロダクトを販売して収益を上げるというやり方は時代遅れになったと言わざるを得ない。筆者は8月末にアイントホーフェン郊外にあるフィリップスのイノベーションラボに訪れたことで、その考えが完全に確信へと変わった。


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