2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2020年5月20日

大恐慌の教訓
危機を変化のきっかけに

 実は、現代では当たり前と思われている制度や仕組み、生活習慣などが、1929年に始まった世界大恐慌をきっかけに出来上がったものがいくつもある。未曾有の危機を乗り越えようと、様々な改革が検討され、実行された結果だ。例えば「週40時間労働」が基準になったのも、大恐慌後の改革から始まった。最低賃金や16歳未満の児童労働の禁止なども、今流で言うワークシェアリングを実行するために導入が求められた。

1932年米NYのタイムズスクエアで食料の配給に並ぶ人々 (AP/AFLO)

 1930年代にはオフィスの光景も大きく変わったと言われる。「個人秘書にかわって速記者のグループが最新の口述録音機を使って仕事をする光景が見られた」(秋元栄一著『世界大恐慌』講談社学術文庫)という。つまり、1920年代に一気に花開いた技術革新とそれに伴う働き方の変化は、大恐慌以降、元に戻るどころか、むしろ加速したわけだ。

 5月4日、政府は緊急事態宣言の延長とともに「新しい生活様式」を打ち出した。テレワークやオンライン会議、時差通勤などが「新しい働き方」とされ、食事もテイクアウトや宅配へのシフト継続を求めている。やはり、新型コロナが終息しても、生活は元には戻らない、ということだろう。

 「新しい働き方」が求められれば、企業の行動も変わる。昨年あたりからDX(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれるようになった。紙とハンコで進めてきた業務をデジタルに置き換えるだけでなく、すべての業務をデジタルで行うことを前提に見直し、業務全体を効率化するという動きだ。2020年に入ると先進的な企業の間では部門横断的にDXに取り組む責任者である、CDXO(チーフ・DX・オフィサー=最高DX責任者)を任命する例が相次いだ。

 つまり、時代の変化が始まっていたところに、新型コロナ禍による「新しい生活様式」が加わり、変化を加速させつつあるのだ。新型コロナに伴う経済凍結は、このままでは90年前とは比べものにならない経済収縮をもたらし、社会の仕組みを根本から見直すことが突きつけられることになる。

Wedge6月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■コロナ後の新常態 危機を好機に変えるカギ
Part 1      コロナリスクを国有化する欧米 日本は大恐慌を乗り切れるのか?
Part 2      パンデミックで見直される経済安保 新たな資本主義モデルの構築を
Part 3      コロナ大恐慌の突破策「岩盤規制」をぶっ壊せ!
Part 4      個人情報を巡る官民の溝 ビッグデータの公益利用は進むか?
PART 5-1 大学のグローバル競争は一層激化 ITとリアルを融合し教育に変革を
PART 5-2 顕在化する自治体間の「教育格差」 オンライン授業の先行モデルに倣え
コロナ後に見直すべき日本の感染症対策の弱点
Part 1      長期化避けられぬコロナとの闘い ガバナンスとリスコミの改善を急げ
Part 2      感染症ベッド数が地域で偏在 自由な病院経営が生んだ副作用
Part 3      隠れた医師不足問題 行政医が日本で育たない理由

  
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◆Wedge2020年6月号より

 

 

 

 


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