霞が関や一部の伝統的企業のカルチャーは、「責任が問われかねないリスクはとらない」というもの。必要だと分かっていてもなかなか見直しには着手せず、前例踏襲で済ませてきた。岩盤規制と呼ばれる規制の裏には、それを守る既得権者がいるケースもあるが、規制自体を見直した場合に受ける「批判」や「責任追及」を恐れるという役所文化がある。
安倍晋三首相は、アベノミクスを掲げる中で「規制改革が一丁目一番地だ」と繰り返してきた。ところが、政府の特区諮問会議が出した資料では、2017年6月を最後に特区法改正はなされず、岩盤規制改革は放置されているとして次のように書かれている。
「この2年余りの間、新たに決定・制度化された規制改革措置は、すべて法律事項以外であり、かつ僅か一桁(9件)に止まっており、その前の約3年間の82件に比べ、改革は著しく停滞している」
要は、規制改革はピタリと止まってしまっていたというのだ。
放置されてきた岩盤規制
今こそ必要な改革
それが新型コロナ対策で、動き出さざるを得なくなっている。4月7日には政府の規制改革推進会議が、受診歴のない患者も含め、初診からオンライン診療を認めることを決めた。また、オンライン服薬指導についても規制を大幅緩和した。これまでは医師会や薬剤師会の反対で、オンライン診療は進んでいなかった。当面新型コロナ対策での「時限措置」ということになっているが、おそらくこれが「ニューノーマル」となり、元に戻すことはできないだろう。
大企業にも迫られる
トリアージ(選別)
「中堅に資本支援1兆円 地方企業の破綻防ぐ」―─。5月1日付の日本経済新聞は1面トップで、新型コロナ蔓延による営業自粛などで経営危機に陥っている中小企業に官民ファンドを通じて資本注入することを政府が検討していると報じた。1件あたり100億円規模の出資も認めるとし、「地域の雇用と経済を支える中核企業の破綻を防ぐ」としている。
経済がまさに「凍りついた」ことで、観光関連の旅館やホテル、外食産業など地域の産業は崩壊の危機に直面している。4月の新車販売台数が速報で28.6%減となるなど、今後、裾野の広い自動車メーカーの減産が本格化すれば、経済への打撃は計り知れない。企業が倒産して経済システムが壊れてしまえば、新型コロナの蔓延が終息しても、経済が復活することができなくなる。資本注入は不可避の選択と言える。
経済活動の凍結が長引けば、中小企業のみならず、大企業にも資本注入が必要になり、「実質国有化」されるところも出始める。米国のドナルド・トランプ大統領は早い段階から航空会社への支援を想定して経済対策を打ち出している。
だが、すべての企業を国が資本注入して救うことは現実には難しい。そうなると企業を選別することが必要になる。新型コロナ後の経済社会で絶対に必要な企業を残すために「トリアージ」しなければならなくなる。
テレワークの進展に伴う業務のオンライン化やデジタル化で、社会は間違いなく大きく変わる。新型コロナが終息しても「元の世界」には完全には戻らないだろう。そうなると求められる産業や企業も大きく変わる。ここで構造転換を進められるかどうかが、コロナ後の成長を可能にするかどうかの分かれ道になるだろう。