4月18日、中国政府が海南省三沙市に新たな行政区を設置することを発表した。南シナ海の南沙諸島(英語名スプラトリー諸島)とその海域を管轄する「南沙区」、西沙諸島(英語名パラセル諸島)とその海域をを管轄する「西沙区」である。
行政権の行使という既成事実を積み重ねることで、南シナ海での実効支配をより強めることが狙いであろう。世界が新型コロナウイルスへの対応に追われる中、中国はしたたかに、海洋におけるプレゼンスを拡大している。
その新型コロナウイルスのパンデミックの責任の所在を巡り、米国と中国の関係が悪化する中、海洋における両国間の緊張も高まっている。
今年1月から2月にかけて、中国海軍南海艦隊に所属するミサイル駆逐艦など4隻からなる「遠海統合訓練編隊」が、南シナ海から太平洋へ展開する遠海訓練を行った。これらの中国艦艇は、南シナ海からバシー海峡を通過して太平洋へ進出したのち東方へ進路をとり、日付変更線を越えてハワイの西方沖300キロまで迫ったといわれる。
中国人民解放軍の機関紙「解放軍報」の記事によれば、中国の艦艇編隊が「戦闘準備訓練状態」で初めて日付変更線を越え、艦載ヘリコプターによる西半球における初めての夜間飛行を実施したという。昨年6月には、中国の空母「遼寧」を中心とした6隻の艦艇からなる編隊が、グアム沖まで展開する遠海訓練を行っていた。今回の遠海訓練の日数と航海距離は、前回の34日と1万カイリを上回る41日と1万4千カイリに達したという。
今回の遠海訓練について中国の海軍専門家である李傑は、中国共産党の機関紙「人民日報」系列の「環球時報(英語版)」によるインタビューで、「太平洋における米国の覇権に挑戦する動きである」と分析し、中国海軍は今後さらに頻繁に、より遠くへ進出するとの見通しを示した。西太平洋における米軍の優位を打破するという目標の実現に向けて、中国は着々と軍事的プレゼンスを強化しているのである。
コロナ対応の真っ只中に
米軍哨戒機にレーザー照射
こうした中で、米中両軍のつばぜり合いは激しさを増しつつある。米海軍太平洋艦隊は、2月17日にグアムの西方約600キロの海域で、中国海軍の駆逐艦が米海軍の哨戒機に対して軍事用レーザーを照射したことを明らかにし、「危険かつ非プロフェッショナルな行為である」と強く批判する声明を発表した。
これに対して中国国防部の報道官は、公海において訓練中の中国海軍編隊に対して、米軍哨戒機が長時間にわたって低高度の偵察飛行を行い、中国の艦艇と乗員の安全を危険にさらしたと主張し、米軍機の行動は「非友好的かつ非プロフェッショナルである」と反論した。レーザーを照射したのはハワイ沖から南シナ海へ向けて転進していたミサイル駆逐艦であり、これを監視していたのは沖縄の嘉手納基地に配備されている哨戒機であった。
ここで注目すべき点は、中国海軍艦艇によるハワイ沖への進出と米軍哨戒機への挑発行為が、中国国内で新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時期と重なっていることである。中国軍は、武漢での病院建設や医師・看護師の派遣、物資の輸送といった感染症対策のオペレーションを実施すると同時に、戦闘能力の強化に向けた訓練も着実に継続している。