2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2020年4月29日

 国防部の報道官は、中国軍が感染症対策に力を入れるとともに、訓練と戦闘準備も重視しており、感染症が軍事訓練に与える影響の最小化に努めていると言及した。中国軍は、カンボジア軍との対テロ合同演習を、予定通り3月初めから開始した。

 他方で新型コロナウイルスの蔓延は、アジア太平洋地域における米軍のオペレーションに影響を与え始めている。韓国での感染状況の深刻化を受けて、3月に予定されていた米韓合同軍事演習が延期となった。5月に予定されていた、フィリピン軍との「バリカタン」合同演習も中止となった。

 3月末には、母港である横須賀に停泊中の空母「ロナルド・レーガン」の乗員2人の新型コロナウイルス感染が判明し、横須賀基地が48時間閉鎖された。さらに、3月上旬にベトナムのダナンに寄港したのち、太平洋へ展開していた空母「セオドア・ルーズベルト」において集団感染が発生し、乗員の検疫や隔離などのためにグアムでの長期停泊を余儀なくされている。

 「ロナルド・レーガン」と「セオドア・ルーズベルト」はともに太平洋艦隊に属しており、インド太平洋における米軍のプレゼンスを維持するうえで中核的な役割を担う空母である。これまで海上自衛隊とも数々の合同演習を行っており、日本や地域の安全保障に大きく貢献してきた。

 米国本土における新型コロナウイルスの感染爆発が深刻化する中で、米軍も対応に忙殺されている。兵員や職員とその家族への感染を防止するために、人員の国内外での移動の禁止や一部施設の閉鎖、訓練の見直しなどに加えて、政府による感染症対策を支援するために病院船を派遣したり、工兵が臨時病院を設置するなどしている。エスパー国防長官は、国家の安全を保障する中心的なミッションを継続しなければならないと強調する一方で、「敵対勢力がこの機会を利用しようとするかもしれない」との警戒感を表明した。

 中国軍による太平洋でのプレゼンス強化に向けた決意は極めて固く、今後ウイルスの感染状況によって米軍のオペレーションに大きな支障が生じる事態となれば、中国軍による太平洋進出が加速する可能性が高まるだろう。

台湾めぐる中国の圧力
新型空母が就役即「通過」

 新型コロナウイルスが蔓延する中でも、中国軍が太平洋におけるプレゼンスの強化を図る最大の目的は、台湾有事の際に米軍による介入を妨害する能力を確立することにある。台湾の統一を目指す中国共産党政権にとって、台湾の防衛に深く関与する米軍の存在は最大の障害である。有事において米軍勢力による中国への接近を阻止し、台湾周辺地域における米軍の自由な行動を拒否できるA2/AD(接近阻止・領域拒否)能力を中国軍が獲得すれば、台湾は米軍という安全保障上の大黒柱を失うことになり、中国による統一要求に抵抗することが難しくなると考えられている。


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