2022年12月8日(木)

Wedge REPORT

2020年5月27日

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児玉 博 (こだま・ひろし)

ジャーナリスト

1959年生まれ。85年に早稲田大学卒業後、フリーランスとして活動。「堤清二 『最後の肉声』」(文藝春秋)で、第47回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞。近著に『起業家の勇気 USEN宇野康秀とベンチャーの興亡』(文藝春秋)。

 翌日には9人、そして最終的には作業員は33人となる。そして彼らには1日165着の医療用防護服が必要とされた。

 「これから出てくる除菌、消毒の作業、また、これから夏に向かうことを考えると、医療用の防護服の供給は本当に大丈夫かと思ってしまいます。現在でも供給崩壊の瀬戸際ではないでしょうか」(大竹)

 ユニゾンの面々が船内で新型コロナと格闘している頃、佐藤のスタッフもまたベルフォア、ユニゾンが使用している消毒剤、その製造元から「バイロックス」と呼ばれる加速化過酸化水素水を求めて奔走していた。厚労省が推奨する消毒剤は次亜塩素酸ナトリウム。だが、この薬剤は物品が変色、また腐食も引き起こす難点も持っている。

 営業再開を目指すホテルやオフィス、また航空業界には大量の消毒剤が必要だが、備品が変色、腐食しては営業がままならない。実際、次亜塩素酸ナトリウムを使用した結果、変色により大量の備品を捨てざるを得なかったホテルの例も報告されている。有効な消毒剤は、加速化過酸化水素水の方なのだ。

買い占められた消毒剤
省庁間の温度差

 しかし、この「バイロックス」は米国内で買い占められ、日本では入手が困難だった。横浜の「シーバイエス」が輸入しており、同社はまた同じような消毒剤もただ1社、製造していた。しかし、厚労省が次亜塩素酸ナトリウムを推奨する中、同社の反応は良くなかった。

 佐藤のスタッフは、厚労省に足を運び、加速化過酸化水素水も消毒剤として厚労省認可をもらえないかと働きかけるも、薬事法で認可されていない消毒剤だったことから議論は平行線を辿る。

 その一方、経済活動再開に相応しい消毒剤ではないかと関心を示したのは経済産業省の「代替消毒液委員会」だった。経産省の関心は、やはり経済活動の再開を優先するという点だった。経産省への指示は首相官邸からのもの。首相官邸に対する経産省と厚労省との微妙な温度差がここにも影を落としていた。だが、厚労省でも新型コロナウイルス対策本部の職員が理解を示し、採用するかどうか検討に入っている。

 こうした動きも後押しし、シーバイエスは月産20トンの加速化過酸化水素水の製造を開始する。

 一方、ユニゾンの社員たちは、感染者を出したクルーズ船「コスタ・アトランチカ号」の消毒作業のため、長崎に飛んでいた。経済活動再開に不可欠な消毒を巡る攻防はこれから本番を迎える。(文中敬称略)

コスタ・アトランチカ号でも特殊清掃員による消毒作業が行われた (MAINICHISHIMBUN / AFLO)
■修正履歴:日本ペストコントロール協会が厚労省からの消毒作業の打診を断った旨の記述を訂正しました。修正は反映済みです。(編集部 2020/5/28 21:00)

 

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Part 3      コロナ大恐慌の突破策「岩盤規制」をぶっ壊せ!
Part 4      個人情報を巡る官民の溝 ビッグデータの公益利用は進むか?
PART 5-1 大学のグローバル競争は一層激化 ITとリアルを融合し教育に変革を
PART 5-2 顕在化する自治体間の「教育格差」 オンライン授業の先行モデルに倣え
コロナ後に見直すべき日本の感染症対策の弱点
Part 1      長期化避けられぬコロナとの闘い ガバナンスとリスコミの改善を急げ
Part 2      感染症ベッド数が地域で偏在 自由な病院経営が生んだ副作用
Part 3      隠れた医師不足問題 行政医が日本で育たない理由

  
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◆Wedge2020年6月号より

 

 

 

 

 

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