2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2020年12月21日

「重症化」「後遺症」……
不安を煽る報道ばかり

 この病気の経過には二つの山がある。一つ目の山はウイルスが悪さをする、感染からおおよそ最初の1週間である。発熱や咳が続くが、それほど重篤にならず経過することが多い。人によってあるのが二つ目の山である。一つ目の山が過ぎ、ウイルスは死滅していく一方で突然重症化する。

 これは体がウイルスという異物に対して過剰に反応し、さしずめ空き巣一人をやっつけるのにミサイルを撃って町中を破壊するような反応が起こるためである。この反応は個人差が強く、無症状で終わる人が多くいる一方で、高齢者や肥満(BMI30以上)、血糖コントロールが不十分な糖尿病の患者は重症化しやすいと言われる。

 20年2~4月頃の医療現場は壮絶だった。明確な治療も感染対策も分からず、ただ各施設がバラバラの対応をしていた。そのため、次々と運ばれてくる感染者に対して、「あの先生がこの薬剤が効くと言ったから投与する」「うちはこういう対策をしている」という試行錯誤の状態であり、体外式膜型人工肺(ECMO)や人工呼吸器もその使用方法は統一されたものではなかった。報道でも何度も取り上げられたECMOも万能ではなく、いったん血液を体の外に通すため、血栓や出血など、ECMOの使用による合併症も報告されていた。

 20年11月末現在では、デキサメタゾンとレムデシビルという二つの薬剤が承認されており、感染から7日目という重症化するタイミングに合わせて全国的に使用されている。また、薬剤を投与しつつ、「人工呼吸器などの侵襲的な治療が必要となるのはどのタイミングか」の見極めもできるようになりつつあり、全国的に統一した治療の確立と水準の向上が起こりつつある。

 結果として、当初全体で5%以上と言われていた新型コロナで重症化して亡くなる人は、今では1.5%以下となった。80歳以上の高齢者に限れば10%前後ではあるが、これは一般的な肺炎と同等か若干低いくらいにまで改善している。

 また、報道などで大きく取り上げられているのが後遺症や再感染である。一度感染すると普通の生活に戻れない、不眠やずっと続く咳、呼吸苦、味覚障害や脱毛が最大50%以上の感染者に起こるといったことも言われている。しかし、筆者の見る限り、ほとんどの患者は健常な生活に戻れている。再感染に関しても3カ月くらいしたら免疫力が低下して感染しうるのではないかとも言われるが、正確な期間ははっきりしていない上に、再び感染したときに重症化するという明確な根拠もない。

 ここで大事なのは、「後遺症に苦しむ感染症とは何か」、「再感染しない感染症とは何か」、「再感染で重症化する感染症とは何か」という点である。確かにそういった症候のある感染症は存在する。しかし数多ある感染症のうち、ほんの一握りで起こる事象である。つまり、「極めて稀な事象であるにもかかわらず、新型コロナを特異な感染症とみなし、これらがさもよく起こりうるかのような前提」で、不安を煽る一方の報道がなされているといえる。

 不安や悪い事態を想定することは当然あってよいし、その気持ちに共感もできる。だが、それだけがクローズアップされると、多くの国民を新型コロナへの正しい理解から遠ざけることになり、ひいては患者への差別などを助長することとなる。それではせっかくの注意喚起も意味をなさなくなる。


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