2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2021年2月19日

感染者数を減らしておくことが
新型コロナの打倒につながる

 さらに、迅速に製造するために今回は多人数のワクチンが医療用ガラス容器(バイアル)に入れられている。そのため、解凍後、速やかに複数人に対して接種を行う必要があり、集団接種という通常の定期接種とは異なる接種体制の整備も場合によっては必要となる。

 通常のワクチンと異なる体制の整備は、実際の実務を担う市区町村の保健衛生部局が行うことになるが、既に大きな負担がかかっている自治体の衛生行政に重くのしかかるだろう。

 地域の医師会、病院、自治体の間で責任の押しつけあいをせずに、スムーズに接種を行えるかが重要である。さらに地域の住民も部外者ではない。その地域の感染伝播抑制には被接種者としての住民自身もその重要なプレーヤーであるからだ。

 もう一つ重要なのが、ワクチンの感染予防効果がいかに高かったとしても、もともとの感染者が多ければ、新型コロナを打倒するのは難しくなるということだ。例えば、ワクチン被接種者のうち95%が発症しないワクチンをある都道府県の全体に接種したと仮定する。そのときの感染者数が60万人と6000人であれば、ワクチンによって、それぞれ感染者数は3万人と300人に減ることになる。

 300人程度にまで抑え込めるような数まで、もともとの感染者数が少なくできていれば、濃厚接触者の調査や厳密な隔離など、日本で当初行っていたようなクラスター対策が著効する可能性もある。さらに、接種率が十分上昇するには年単位の時間が必要だ。つまり、ワクチンの集団免疫効果が表れるには時間がかかる。

 このプロジェクトは歴史的なものになるだろう。日本が危機に対応する力があるのかを示す総力戦といってもよい。国や自治体の力だけで成し遂げられるものではなく、社会全体の協力が不可欠だ。

 最終的な目的は死者数、重症者数を増やさないこと、そして、どの程度の時間がかかるかはわからないが、感染者数を減らすことである。

 そのためには、国・行政頼みではなく、ワクチンを接種したとしても、対人間で距離をとったり、適切に換気を行ったり、手指衛生を保ったりするなど、一人ひとりが新型コロナの感染リスクを下げる地道な感染予防策を続けていくことが何より大切である。

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■「想定外」の災害にも〝揺るがぬ〟国をつくるには
Contents     20XX年大災害 我々の備えは十分か?
Photo Report     岩手、宮城、福島 復興ロードから見た10年後の姿
Part 1    「真に必要な」インフラ整備と運用で次なる大災害に備えよ  
Part 2     大幅に遅れた高台移転事業 市町村には荷が重すぎた             
Part 3     行政依存やめ「あなた」が備える それが日本の防災の原点      
Part 4   過剰な予算を投じた復興 財政危機は「想定外」と言えるのか   
Part 5     その「起業支援」はうまくいかない 創業者を本気で育てよ          
Part 6   〝常態化〟した自衛隊の災害派遣 これで「有事」に対応できるか

  
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◆Wedge2021年3月号より


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