2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2021年8月20日

接種者への優遇措置は
「不当な差別」にあたるか

 一方日本では、国内でのワクチン接種者に対する行動制限の緩和や特典付与について、政府の腰は重い。

 加藤勝信内閣官房長官は7月12日の会見で、「『ワクチン接種をした方に対する優遇措置をどうするか』という議論があることは承知しているが、接種の強制や、接種の有無によって不当な差別が生じることは適切でない」との見解を示した。その後、8月3日の会見で「少し先を見据え、ワクチン接種の進展を踏まえた感染防止策などのあり方について専門家の意見を伺いながら政府として検討していきたい」と述べつつも「現時点ではワクチン接種の有無にかかわらず、感染拡大を防ぐため、都道府県を越えた移動を避けて頂きたい」とし、慎重な姿勢を崩さない。

 ワクチン接種者に対しても未接種者と同様の自粛要請を行うことに対し、医療関連の法律に詳しい田辺総合法律事務所の吉峯耕平弁護士は「差別とは本来、特定の属性の人々を、合理的な理由なく区別し、不利益を与えることを意味する。ワクチンの有効性・安全性が科学的に示されていることが前提だが、これまで同様の一律の行動制限は、接種者に対し不必要な人権制限を課すことになり、むしろ問題だ」と指摘する。さらに「ワクチン接種者への行動制限を緩和することは若年層への接種を促進する効果が期待でき、結果として、本当にワクチンを打てない人を守ることにもつながる」と述べる。

 一方で、接種希望者全員にワクチンが行き渡っておらず、東京圏や大阪などで感染が広がる現在の状況下で、どのように議論を進めるべきか。公衆衛生を専門とする慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の坂元晴香特任助教は「制限を緩和する場所と時期は必ずしも一律である必要はない」とする。

「例えば、感染が落ち着いている地域から、希望者へワクチンが行き届いたタイミングで、接種者を対象にGo Toトラベルキャンペーンを再開するなど、地域ごとの感染状況や接種状況を踏まえ、段階的に経済を再開させていくことも検討すべきだ」(同)

 ワクチン接種者へのインセンティブ付与に慎重な政府に対し、民間事業者や自治体レベルで、ワクチン普及を支援しながら経済再開を目指す新たな動きが出てきている。

 首都圏を中心にホテル事業を展開する日本ホテル(東京都豊島区)は、ワクチン接種済証を提示した利用客に対し、「ホテル共通利用券」を付与する取り組みを7月15日より開始した。接種者は宿泊やレストランの利用金額に応じて最大3000円分の利用券を受け取ることができ、東京ステーションホテルやホテルメトロポリタンなど、同社が運営する34ホテルでの使用が可能だ。広報・ブランド戦略部の佐藤進部長は導入の背景について「当社だけでなく、ホテル業界全体が苦境に立たされている。一日でも早くコロナ禍が収束し、一人でも多くのお客様が当ホテルを選んでくれることを願ってワクチン接種を応援したい」と語る。

(出所)厚生労働省および政府CIOポータルのオープンデータを基にウェッジ作成
(注)「ワクチン接種率」は、接種回数累計を住民基本台帳による令和2年1月1日時点の総人口で除したもの 写真を拡大

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