接種会場で「ワクチン特典」
市と地元百貨店の取り組み
自治体と地元事業者が互いに連携した取り組みもある。神奈川県横須賀市内の中心に位置し、三浦半島唯一の百貨店である「さいか屋 横須賀店」は新型コロナワクチンの大規模接種会場として指定を受けた。同店では、5月17日の接種開始に合わせ、接種済証明書を提示した接種者に対し、百貨店内の一部の店舗で割引などの特典を付与するキャンペーンを開始した。だが、そのわずか3カ月前となる今年2月、同店は業績悪化を理由に、1872年(明治5年)から続く創業149年の歴史に一度幕を下ろしていた。
「20年5月に閉店を公表するとすぐに、再開を望む地元の方々から『なんとか続けられないか』といった声を本当にたくさん頂いた」と話すのは、横須賀店店長である、さいか屋(神奈川県川崎市)の脇田篤朗取締役だ。
思わぬ地元住民の声を受け、約半年をかけて、営業再開の道を探り、閉店から2週間後の3月6日、低層階フロアのみに売り場を縮小し、半分以下となる床面積でのリニューアルオープンにこぎつけた。その空いた5階と6階のフロアを大規模接種会場として使用したいと横須賀市から打診があったのは今年1月のことだった。その後横須賀市より「ワクチンの接種率を上げるために、百貨店の中で協力頂けることはないか」との相談を受け、発案されたのが同キャンペーンだった。
「キャンペーンの割引分については当社と各店舗で負担している。今日の利益を考えるより、地元の皆さんに将来の日常を取り戻してもらうことを優先したい。当店は来年で創業から150年を迎える。一度は諦めたが、多くの人の声に支えられて再び見えてきた数字だ」(脇田取締役)
横須賀市は6月中旬より同キャンペーンを、約80の商店街を含む市内全域に広げた。共通ポスターを掲げる店舗での買い物時に接種済証明書を提示することで、その店独自の特典を受けることができる。
ワクチン接種状況に応じた今後の経済再開について、前出の坂元特任助教は「接種者であってもすり抜け感染があり感染リスクがゼロになるわけではないが、全国的な感染拡大を抑えつつ、多くの人が旅行や飲食を楽しめるようになるメリットの方が大きい。一定のリスクを国民全体で受け入れながら前に進む必要がある」と語る。
ステイホーム、正念場、勝負の3週間、我慢の夏……。われわれは多くの痛みに耐えながらも、いつか再び訪れる日常を信じて1年半を乗り越えてきた。その中で身に付けた日々の感染対策のすべとワクチンという武器を手に、新たな未来を描くときにある。将来への希望は、新型コロナと共存しながら日々の生活を送るうえでの活力となるはずだ。