中国―韓国間のフェリーは「軍民両用」
しかしここでいう海上輸送能力とは、主として中国海軍が持つ軍用の水陸両用艦艇にのみ着目した評価である。正確な時期は明らかではないものの、中国政府は商用の大型フェリーやコンテナ車両輸送船の造船業者に対して、戦時動員された際に国防上の必要性に応じることができることを保証する技術基準証明を発行してきた。
また、中国―韓国間で運行している大型フェリーのプレスリリースには、軍民両用であることが明記されている。実際、近年人民解放軍はこれらの商用船舶を動員して、水陸両用作戦を実施する演習を定期的に行なっている。
これらの商用船舶は非常に大型であり、上記の水陸両用強襲演習に参加したと見られる商用フェリー「渤海玛珠」は約3万3450トンもの大きさがある。先のシュガートらの推計によると、中国が有する大型フェリーは約75万トン、コンテナ車両運搬船は約42.5万トンにものぼり、これらの合計(117万トン超)は中国海軍が現在保有している全ての水陸両用揚陸艦艇の総数(37万トン)の3倍以上に達する(いずれも容積トン換算)。
これらの大型商用船舶の多くは、平時には北部戦区(黄海周辺)と南部戦区(海南島周辺)に近い海域で運行されており、有事の際には速やかに東部戦区に移動して台湾侵攻にあたる部隊を支援しうることから、中国の海上輸送能力を飛躍的に向上させる可能性を秘めている。
もはや「最小限抑止」にとどまらない核戦力
台湾有事を考えるにあたって注視すべき第4の要素が、核戦力の増強傾向である。中国の中距離ミサイルは基本的に核・非核両用能力を持っていること、また近年では爆撃機にも核搭載能力が備わりつつあることは既に指摘した。これらは主として西太平洋地域までをカバーする核戦力であるが、中国の核態勢や核戦略が変化してきていることを伺わせる状況証拠は、米国本土まで到達するICBM戦力の動向にも現れている。
21年には複数の民間専門家が行った商用衛星画像の分析を通じて、中国が最新型のICBM・DF-41用と見られるサイロを200カ所以上建設していることが明らかにされた。米国防省は既に20年版の年次議会報告書の中で、中国がDF-41用のサイロを建設している可能性を指摘していたが、公開情報分析によって、その実態がより詳しく世に知られることになったのだ。
DF-41は1基あたり最大10発もの核弾頭を搭載しうるように設計されたICBMとされている(もっとも、実際に10発の核弾頭を搭載できるかどうかは、弾頭の軽量化技術に拠る)。このことは、米中の戦略的安定性と中国の核戦略にとって重要な意味を持っている。
商用衛星画像で既に場所が特定されているように、固定サイロに配備されたICBMは先制攻撃に対して脆弱性が高い。しかも、1基に複数の核弾頭を搭載したミサイルは、それだけ戦力としての価値が高くなるから、中国としてはこれらが先制攻撃で破壊される前に発射してしまおうという誘因が働きやすく、危機における安定性が極めて悪化することが懸念される(こうした状況を避けるために、米国のICBMは多弾頭搭載能力を持ちながらも、全て単弾頭化されている)。
米国防省は20年版の年次議会報告書から、中国の一部の核戦力が警報を受けた時点で、即時発射できるような態勢に移行しつつある可能性を指摘していたが、多数のICBMサイロの発見はこうした分析により説得力を与える材料になっている。
さらに専門家を驚かせたのが、中国の核弾頭製造能力に関する評価である。中国が保有する核弾頭の数については、20年版の年次議会報告書でも「(現在の200発強から)今後10年で少なくとも倍増するだろう」と見積もられていた。ところが21年版の年次議会報告書では、高速増殖炉や核燃料の再処理施設を建設して、プルトニウムの生産・分離能力の向上が図られていることに鑑み、「30年までに少なくとも1000発の核弾頭を保有することを意図している可能性が高い」と、その見積もりを大幅に上方修正したのである。
世界各国の核態勢に詳しい米科学者連盟のハンス・クリステンセン氏は、長らく中国の核戦力は、報復によって米国の一部の都市だけ破壊しうる最小限の核戦力を保持する戦略(最小限抑止)の下で抑制的に発展してきた、と主張してきた。しかし、そんな彼も「もはや、中国が最小限抑止を維持していると考えることは難しくなった」と認識を改めている(奇しくも、クリステンセンはこれらの新設サイロ群を発見した専門家の1人である)。
中国が行動に出る危険性は高まるばかり
また21年7~8月にかけて、中国が地球を周回する極超音速滑空体の実験を複数行なっていたことも確認されている。中国の報道官はこれを「再利用可能な宇宙機の実験」と説明しているが、米軍関係者によれば、滑空体は「(減速せずに)目標に向かって加速した」と証言している。