2022年8月11日(木)

21世紀の安全保障論

2022年1月18日

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村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

 多くの中国専門家が指摘しているように、現在の中国指導部が、本格侵攻による武力統一以外のオプション(例:武力による脅しを背景とした強制や親中世論の醸成)を優先的に追求しているのだとすれば、それは武力統一に伴う米国との衝突リスクを高く見積もっていることの裏返しでもある。

 逆に言えば、米国の介入能力が低下してしまえば、中国は武力衝突に伴うリスクが低くなったと判断して、台湾に対してより大胆な脅しをするようになるであろうし、実際に武力統一に乗り出す誘因も高めてしまうことになる。つまり、中国の強制力を弱めるにしても、本格侵攻を阻止するにしても、米国が十分な介入能力を保持しておくことは中国に対処する上での絶対条件なのである。

中国は日本の基地を無力化させる力持つ

 改めて整理すると、「中国が台湾へ本格侵攻する可能性は当面低い」との評価は、武力統一が失敗するリスクが高いとの前提に則っており、そのリスクは主として、①米国の介入と、②着上陸侵攻能力の不足に由来する。

 だが近年中国は、米国の介入を阻止するための能力を驚くべき速さで向上させている。中でも注目すべきなのは、中距離ミサイル戦力、爆撃機戦力、艦艇・船舶の建造能力、そして核戦力の増強傾向である。

 第一に、中国の中距離ミサイル戦力が増強され続けてきたことは、日本でもようやく一般に認知されるようになってきた。しかし、その増強ペースは専門家でも〝度肝を抜かれる〟ほどだ。日本では北朝鮮のミサイル発射が注目されがちだが、中国が20年に実験や訓練などで行った弾道ミサイル発射は250発を超える。これは同年に中国以外の国で行われたミサイル発射を全て足し合わせた数よりも多い。

 ミサイル本体や移動式ランチャー(車載型のミサイル発射装置)の増産も著しい。例えば、米軍の一大拠点であるグアムを攻撃範囲に収める射程4000キロメートルの中距離弾道ミサイル(IRBM)DF-26のランチャー数は、18~19年のたった1年間で80両から200両へと2倍以上に増加している。

 19~20年にかけてはランチャーの増勢は見られなかったものの、DF-26のミサイル本体については約200基から300基へと100基分の予備弾が増産されたことが確認されている。また、日本を射程に収める準中距離弾道ミサイル(MRBM)は、19~20年に100両分が増産されて計250両となった上、ミサイル本体に至っては19年に150基以上とされていたものが、20年には600基と凄まじい勢いで増産されていることが明らかになった。

 しかもこれらの増加分の多くは、DF-17と呼ばれる極超音速滑空ミサイルだとみられる。21年の時点で、DF-17が即時投入可能なMRBM戦力の約4割を占めていると仮定すると、20年代後半にはこれらの増勢がさらに進んで、南西諸島を含む西日本の自衛隊基地・在日米軍基地の大半が開戦と同時に瞬時に無力化されてしまうという状況が現実味を帯びてくる。これは日本の防衛態勢を考える上で極めて憂慮すべき事態である。

 さらに言えば、MBRM戦力の増勢はより射程の長いDF-26に運用上の柔軟性を与えることにも繋がる。これまでにもDF-26は、DF-21Dと並んで「空母キラー」と称されてきたが、ランチャーの増勢によって同時発射能力が強化されたことに加え、予備弾が追加されたことで、DF-26は空母のような高価値目標に限定することなく、イージス艦や補給艦などのその他の艦艇にも使用されうる対艦弾道ミサイル(ASBM)となりつつある。

 このままDF-26の増勢傾向が続けば、危機の際にマラッカ海峡などのシーレーンを封鎖しようと東南アジアやインド洋の東側に展開する米軍や同盟国の艦艇にも脅威がおよぶ可能性が出てくる。

先行使用の可能性も見せる

 またDF-26が艦艇を攻撃できるほどの命中精度を持っているとすれば、それは地上目標に対する精密打撃能力としても用いられる可能性がある。これはレーダーや無人機の管制システム、指揮統制ネットワークなどの地上ユニットが、第一列島線はもとより第二列島線内のどこにいても、常にDF-26の攻撃に晒されるリスクがあることを意味する。

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