2022年8月18日(木)

21世紀の安全保障論

2022年1月18日

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村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

 DF-26の増勢に憂慮すべき理由は他にもある。それはDF-26が核・非核両用のIRBMだということだ。元々、中国のミサイル戦力はICBMと短射程の戦術ロケットを除けば、その大半が核・非核両用の運用能力を持っているとされている。ただし、これまで中国は、安全のために平時には核弾頭をミサイルから分離して保管していると言われており、それが核の先行不使用(no first use: NFU)政策を一定程度裏付けるものと見られていた。

 ところが、近年情報機関や専門家による分析の結果、人民解放軍のミサイル部隊は、即応性向上の観点から、戦闘準備態勢と厳戒態勢とを絶えず繰り返すローテーション訓練を定期的に行なっている様子が確認されている。中でもDF-26を運用する旅団は、前線で通常弾頭と核弾頭を素早く交換する訓練を実施しているとみられる。

 これは従来の定説と異なり、核弾頭の一部が平時からミサイルに搭載されたまま、即応状態を維持していることを示唆している。さらに言えば、DF-26が本当に高い命中精度を持っているのだとすれば、なぜ核・非核両用の運用態勢をとっているのかを合理的に説明することは難しい。これらを総合すると、中国のミサイル運用態勢は、核の先行不使用を裏付けるというよりも、むしろ特定の状況下での先行使用可能性を示唆するものだと考えられるのである。

爆撃機戦力の近代化進める

 中国の対米介入阻止能力を支える第2の要素が、爆撃機戦力の近代化と増勢である。中国の主力爆撃機であるH-6は、元々1950年代にソ連で開発されたTu-16爆撃機を国産化したもので、ミサイル搭載能力やその投射距離も限定的であった。ところが、2009年から実戦配備が始まったH-6Kは、機体設計やエンジンの改修が行われており、ほとんど別の爆撃機となっている。

 その結果、作戦行動半径は3500キロメートルに延伸され、巡航ミサイルの搭載能力も2発から6発に拡張されている。加えて、ミサイル(YJ-18超音速対艦巡航ミサイルなど)の射程も延伸されているため、中国の近代化された爆撃機部隊は、第二列島線内の地上部隊や空母打撃群をスタンドオフ攻撃することが可能となっているのである。さらに近年では、空中給油能力と空中発射型弾道ミサイル搭載能力を持つH-6Nと呼ばれるタイプも確認されており、米国防省はこれをもって中国が核戦力の「三本柱(陸:ICBM、海:SLBM、空:爆撃機)」を完成させたと分析している。

 また中国は、旧型のH-6を近代化改修型のH-6K以降のタイプに置き換えるだけでなく、爆撃機戦力全体の規模を拡大しているとみられる。長年米海軍で情報分析や戦略立案に関わってきた経験を持ち、現在は新米国安全保障センター(CNAS)客員上席研究員を務めるトマス・シュガート氏が商用衛星画像を基に中国の爆撃機基地の拡張状況などを継続的に確認したところ、近代化されたH-6の総数は18年時点で200機強、20年時点で最低でも230機以上が配備されていると推定されている(なお、ミサイル搭載能力や運用構想の観点から単純な比較はできないものの、20年時点で米空軍が保有する爆撃機の総数は、B-1、B-2、B-52を合わせて158機である。さらに、米国の爆撃機戦力のうち核搭載能力を持つ機体については、米露間の軍備管理条約である新STARTのカウンティング・ルールに合わせて制約を受ける)。

 これらの爆撃機部隊は、有事の際には地上発射型の中距離ミサイルと合わせて、日本やグアムの固定施設や、移動中の海上自衛隊・米海軍艦隊を脅かし、日米のミサイル防衛体制に多くの負荷をかけることになるだろう。

造船は軍、商用の両面でペースを上げる

 注目すべき第3の要素は、中国の艦艇建造能力である。ミサイル戦力の増勢もさることながら、中国は艦艇の建造ペースも非常に速い。中国海軍は既に15年の時点で、総隻数という観点からは世界最大の海軍となった。もっとも、これは中国海軍が比較的小型の艦艇を大量に保有することからくるもので、総トン数では未だ米海軍に優位がある。

中国による艦艇の建造・就航は急ピッチで進んでいる

 しかしながら、この優位は次第に自明視できるものではなくなりつつある。中国が15~19年のうちに進水させた艦艇の総計は60万トン以上と、同じ期間に米海軍が進水させた艦艇の総トン数の2倍に相当する。実際、中国の造船所では、空母や最新鋭の駆逐艦、大型巡洋艦、強襲揚陸艦、潜水艦などが急ピッチで建造されている。これらを踏まえると、中国海軍は35~40年頃までに、総トン数においても米海軍に匹敵する規模となる可能性がある。

 これと関連して注視すべき点は、中国の造船ペースの速さは軍だけの傾向ではないということだ。中国は世界最大の商用造船能力を持っており、20年には総計2300万トンもの船を建造している。これが何を意味するのか。前述の通り、中国が台湾への本格侵攻を実行するにあたって大きなリスクとなるのは、米軍の介入可能性に加えて、大規模着上陸侵攻に必要な海上輸送能力が不足しているという点だった。この事実は、米国防省のみならず、多くの軍事専門家の間で共有されている。

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