2022年、日本の安全保障にとって大きな課題になるのは「敵基地攻撃能力」の保有だ。年々、活動を拡大させる中国に対応するため、日本も、中国に対して反撃できる能力の保有を目指す構想である。
実は、日本以外にも「敵基地攻撃能力」獲得に向けて動いている国は多い。お隣では台湾と韓国、フィリピン、ベトナム、オーストラリア、そしてインドも積極的に構想を進めている。
そのインドで、21年12月8日、その「敵基地攻撃能力」に関する大きなニュースがあった。日本ではあまり大きく取り上げられることはなかったが、インド軍のトップ、ビピン・ラワット国防参謀長(日本の統合幕僚長に相当)の乗ったヘリコプターが墜落し、亡くなったのである。
この事件は、インドの対中国軍事戦略において大きな打撃であった。亡くなったインド軍国防参謀長は、中国に対する「敵基地攻撃能力」を念頭に置いたインド軍の大改革を主導している最中だったからだ。しかし、統合参謀長の死で、計画全体が遅れる可能性がある。
そこで、本稿では、インド軍の大改革について概観し、この再編と統合参謀長の事故死が、日本にどのような影響をもたらす可能性があるのか、分析するものである。
インド軍が誇示する2つの戦闘力
インド軍は今、どのような大改革をしようとしているのだろうか。その改革の主眼を見て取ることができたのが、20年以降の状況である。20年春、中国軍がインド側に侵入して印中両軍が衝突、インド兵だけで100人近い死傷者を出した。
それ以来、印中両軍は国境付近に大規模に展開し、21年末の時点でも、緊張状態のままだ。その中で、インド軍は大きく分けて2つの戦闘力を誇示している。中国を攻撃するための戦闘機やミサイル、そして中国を攻撃するためのインド陸軍第17軍団である。
インドが20年に独自開発ないし外国から購入している戦闘機やミサイルをみると、特徴がある。まず、ミサイルの速度が大変早く、極超音速、超音速といった世界最速レベルで、中国の迎撃網を突破して攻撃が可能であることだ。また、射程も延伸しており、1000~2000キロメートルのものが多く、印中国境に隣接するチベットや新疆ウイグル自治区の中国軍施設やインフラなどがすべて射程に入るものである。