2022年8月10日(水)

インドから見た世界のリアル

2022年1月6日

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長尾 賢 (ながお・さとる)

米ハドソン研究所 研究員

学習院大学大学院にて博士号(政治学)取得。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員などを経て2017年から現職。日本戦略研究フォーラム上席研究員、スリランカ国家安全保障研究所上級研究員、未来工学研究所特別研究員なども兼任。著書に『検証 インドの軍事戦略』(ミネルヴァ書房)。

 印中国境では、陸軍第17軍団が中国方面に攻撃に出るときは、空軍の輸送機やヘリコプターで運ぶのであるから、陸軍と空軍は一体になって連携した作戦をしなければならない。どっちが主役という問題ではない。統合軍のシステムの方が陸海空軍の連携を促し、効率的である。

 そこで、そういった陸海空軍の意見の対立をうまく調整して、この統合軍の構想を進めていたのが、インド軍のトップ、ビピン・ラワット国防参謀長だったのである。20年1月に国防参謀長の制度ができ、初代国防参謀長として計画推進を担った。そして23年までにすべての統合軍を発足させ、インドは、対中国作戦能力を大幅に高めるはずだった。しかし、亡くなってしまったのである。

日本への影響は

 このインド軍の大改革は、日本にどのような影響があるものといえるのか。実は大きな影響がある。

 上述のように、日本の岸田文雄政権も「敵基地攻撃能力」について検討を行っている。戦闘機や艦艇、車両から発射するミサイルを長射程化し、1000~2000キロメートルの射程のミサイルを装備する計画だ。

 20年には、オーストラリアが同じような1000~2000キロメートルの射程を持つ武器の保有を決めたし、台湾、韓国もミサイルの射程を伸ばしている。ベトナムも中国の海南島を攻撃できるミサイルを保有した。フィリピンもインドからミサイルを輸入する交渉を進めている。

 このように、中国の周辺各国が同時に中国を攻撃する武器を保有することは、中国対策としては効果的なものと考えられる。中国の軍事費がいかに膨大でも、いろいろな国から攻撃を受けるかもしれないことを考えると、軍事費をさまざまな方向に分散させなければならなくなるからだ。

 例えば、中国が台湾や日本への攻撃を考えていたとしても、インドから攻撃を受けることを考えると、軍事費の一部をインド対策に割り当てておかなければならない。実際に中国が台湾や日本を攻撃した時に、インドが中国を攻撃する可能性が高くなかったとしても、一定額をインド対策に充てる必要が生じるのである。

 実際、インド軍の能力が上がるにつれて、中国が日本対策にむけて準備していた戦力の一部が、印中国境の方へ移動している。20年に印中両軍が衝突し、インド側だけで100人近い死傷者を出してからは、非常の多くの中国軍の部隊、戦闘機やミサイルなどが、インドとの国境に配備されている。つまり、インドの対中国戦力が整えば整うほど、日本が相手にしなければならない中国軍の戦力、そしてその戦力を動かすための軍事費が少なくなることを意味している。

 だから、インド軍の対中国攻撃能力の強化、そして、それを実行可能にするインド軍の統合軍の創設については、日本としては、早く実現してほしい構想だ。しかし、ラワット国防参謀長の死で、今後、計画は遅れるかもしれない。亡くなったのは21年12月8日、2022年1月1日時点で、後任はまだ決まっていない。今後のインド軍の動向が注目されるところである。

  
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