NHKスペシャル「広がる“中国化”一帯一路の光と影」(11月21日午後9時50分放送)は、21世紀にあらゆる分野で、世界のトップに立つ「中国の夢」を実現するための最大の戦略である「一帯一路」について、カンボジアを中心としながらも、タイ、マレーシアなどの東南アジア諸国連合(ASEAN)、そして欧州連合(EU)諸国にもカメラを入れた、ドキュメンタリーの傑作である。
「一帯一路」は、中国と欧州を陸と海で結んで、巨大な経済圏をつくる構想である。その存在は知っていても、そのために中国が巨額の投資をしている国々でいったい何が起きているのか。ドキュメンタリーは「異形の大国は目的に向かって突き進もうとしている」現実を観るものに突きつける。
99年借款で軍用機も発着できる空港建設
カンボジアの南部の海岸沿いで、中国企業による巨大なリゾート施設づくりが進んでいる。その地名を頭にとった「ダラサコー・ロングベイ・プロジェクト」である。
中国企業は、カンボジア政府から延長90㌔メートルに及ぶ海岸線を99年間借り受ける契約を結んでいる。「99年」という年月は、帝国主義時代に列強が、植民地化のために押しつけた年数である。香港とマカオをみるまでもない。カンボジアの海岸線の20%にも及ぶ。国防の生命線である、海岸線が中国によって押さえられたのである。
「一帯一路」のなかでは、最大級のリゾートになるこのプロジェクトは、中国人の富裕層をターゲットにして、年内のオープンを目指し、年間1200万人の観光客を見込む。
このプロジェクトについて、米国が疑惑の念を抱いて警戒しているのは、リゾート客を受け入れるために建設中の空港にある。首都・プノンペン空港の滑走路をはるかにしのぐ、3200㍍もある。民間機ばかりではなく、軍用機の離発着も可能な長さに相当する。
駐カンボジアの米国大使である、パトリック・マーフィー氏は、中国が国内法で制定した「国防動員法」についてまずふれた。この法律は、有事に際して軍が民間の施設や物資を利用できるという内容である。そのうえで、同氏は次のような危機感を表明する。
「(建設が進んでいる滑走路は)軍民融合つまり、軍事活動の疑念を持っている」と。
米国政府は、このリゾート開発を行っている中国企業「正恒集団」に対して、資産凍結などの経済制裁をしている。