中国が南アジアに進出する上で重要な手段が、習近平国家主席の看板政策「一帯一路」構想であり、その中でスリランカは重要なパートナーだ。
2013年以来、中国とスリランカの間には戦略的協力パートナーシップがあるものの、特にインフラと連結性強化のための協力に関しては、両国の関係には疑念と不安がつきものだ。島国かつ途上国であるスリランカは、連結性強化事業への中国からの資金提供と関与を積極的に歓迎し、そのプロセスの中で経済大国・中国との、より緊密な包括的パートナーシップをスタートさせた。
しかし、こうしたパートナーシップの成熟化に問題が伴わないわけではない。「海のシルクロード」の下での中国からの開発支援や経済的影響力の増大は、経済小国にとって「債務の罠」につながると懸念され、スリランカでは議論が起こっている。
国際社会で孤立していた
スリランカを支援した中国
歴史的に見て、中国・スリランカ関係が深まったのは、スリランカ政府と反政府勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」との内戦の時期である。当時、国家支援の下で人権や公民権を侵害しているという疑惑が広がり、スリランカ政府は国際社会で孤立を深めていた。西欧諸国から距離を置かれ、国内では内戦を抱えたスリランカに対し、手を差し伸べたのが中国だった。財政支援、軍事物資の提供を行い、さらに国連では政治的に援護し、国際社会からの制裁を妨害してスリランカ経済への大打撃を回避した。
中国の手厚い支援により、スリランカ政府は09年にLTTEを打倒した。その後も支援は15年まで続き、中国は権力の集中したラージャパクサ一族と親交を深め、中国にとってスリランカは今後の南アジアを展望する上で欠かせない存在となり始めた。
実際、習近平国家主席は2014年、中国首脳としては1986年以来初めて、スリランカを公式訪問した。さらに、スリランカの新聞に両国の関係の重要性を強調する記事を寄稿し、「チャイナ・ドリーム」と、マヒンダ・ラージャパクサ大統領(当時、現首相)の選挙公約「マヒンダ・チンタナ」で示された方針を結びつけた上で、共通のビジョンを実現するために両国関係のさらなる発展を呼びかけた。
この結果、ハンバントタ港開発事業をはじめ、スリランカは中国から巨額の融資、投資を受けることになった。この決定は同時に、中国がスリランカにおいて深い政治的影響力を持つことを浮き彫りにした。海外進出の際、中国は通常、まず経済的なプレゼンスを確立し、それを基に政治的にも台頭してきたが、スリランカでは経済ではなく政治的影響力を先に確立した。
しかしながら、ハンバントタ港の開発が果たして小国スリランカに必要なのか、特に首都に所在する主要港が栄え、拡張の余地もある時に必要性があるのかという点は、国内外の戦略専門家の間で大きな議論の的となった。
中国・スリランカの経済交流は、1952年にスリランカのゴム、中国のコメを相互に供給する協定から始まる。この「友情協定」のおかげで、スリランカ政府はコメ不足を相殺するとともに、余剰となったゴムを売る市場を確保することができた。この協定以降、スリランカは非共産主義国としては初めて、中国との経済関係を樹立することになった。
こうした経済交流は2国間関係を評価する一つの基準だが、最近では軍事、戦略、開発分野を網羅するまでに発展した。一帯一路はまさにこのような文脈に沿っており、インド洋地域の重要な沿岸国家として浮上したスリランカを、インド洋海域で活動する際の足掛かりとして中国は利用できる。中国共産党は歴史的に、政党同士の関係に基づく外交を採用していて、スリランカのような専制政治の小国と協力する傾向が特に見られる。
スリランカ政府は当初、南アジアにおけるインドの伝統的な影響力を考え、インド政府にハンバントタ港開発支援の話を持ちかけた。しかし報道によれば、元インド外務次官で当時の国家安全保障顧問のシブシャンカル・メノン氏は、ハンバントタ港開発事業について「当時も、そして今も、経済の失策である」としている。インドがこの事業へは投資しないと決めたことで、中国が一帯一路を理由に参入することになった。
そして現在、一帯一路の下で受けた融資をスリランカ政府が返済することができないため、中国は99年間にわたるハンバントタ港の運営権を手に入れた。戦略的に見れば、ハンバントタ港は中国にとっての地域のライバル、インドの目と鼻の先にあるインフラであるため、中国の海上交通路戦略「真珠の首飾り」において、スリランカがインド洋の一粒の真珠になるのではないかという不安が高まっている。
ハンバントタ港の99年にわたる運営権の譲渡を、非常に大きく警戒したのが政治・戦略の専門家らである。「債務の罠」外交によって、重い債務負担を抱えた小国の返済が継続不能となり、代わりに戦略拠点として重要なインフラへのアクセスを手放すことになる事態に、懸念を強めている。