スリランカに求められる
「デュアルトラック」外交
いずれにせよ、スリランカや、特にインドをはじめとする戦略面での利害関係国にとっては、中国が債務軽減と引き換えに手に入れたインフラと一帯一路事業を軍事利用するかもしれないという不安が、国際的緊張と中国政府が貫く修正主義によって助長されている。
これらを念頭に、スリランカは2018年、海軍の南部司令部をゴールからハンバントタ港へ移転し、同港での海軍プレゼンスを強化した。とはいえ、安全保障面での懸念に適切に対処し、国内での一帯一路事業に対する世論の信頼を回復するためには、政策当局、学者やアナリストによる継続した監視が必要である。
スリランカ自身は、これまでのように外国からの借り入れに依存するのをやめ、貿易と投資に重点を置く必要がある。そのためには、大規模な軍を保有しない小国のスリランカは、より大きな自律性をポスト・パンデミックの世界で戦略的に追求すべきだ。
米中対立は過熱し、さらにスリランカにとって最大の貿易相手国、インドも中国との緊張を抱え、対立関係が続いている。そのような状況では、小さな島国のスリランカは、経済面よりも安全保障面での国益を守ることが必要不可欠になるだろう。
これは、確かな基盤を持ち、入念に練られた「デュアルトラック」外交、すなわち地政学的現状に即し、インド太平洋地域と中国の両方を大きく関与させる形をとることで、実現できる可能性がある。
つまり、ポスト・パンデミックに台頭する国際秩序において、スリランカの外交政策の指針は、日豪印が構築を目指す「サプライチェーン・レジリエンス・イニシアティブ」といった枠組みへの参加や、インドやモルディブとの海洋安全保障パートナーシップの構築、米国との政治関係の強化や、インド太平洋諸国との貿易関係の深化を重視したものでなくてはならない。中国の一帯一路との関わりが予定通り前進し続けるにしてもだ。
2013年、中国の習近平国家主席が突如打ち出した「一帯一路」構想。中国政府だけでなく、西側諸国までもがその言葉に“幻惑”された。それから7年。中国や沿線国は何を残し、何を得て、何を失ったのか。現地の専門家たちから見た「真実」。それを踏まえた日本の「針路」とは。
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