世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年9月3日

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 スリランカでは8月5日に総選挙が行われた。この総選挙は、誰が勝つかではなく、ラージャパクサ政権の与党がどこまで勝つかが注目されていた。結果は、ラージャパクサ家の長であるマヒンダ・ラージャパクサ首相(元大統領)率いるSLPP(スリランカ人民戦線)が地滑り的勝利を収め、225議席のうち145議席を獲得した。これに4つの小党を取り込んで150議席、すなわち憲法改正に必要な3分の2の多数を獲得した。

-Panya- / iStock / Getty Images Plus

 ラージャパクサ一族は、2015年の大統領選でマヒンダがマイトリーパーラ・シリセーナに敗れた後、2019年までの5年間野にあったが、昨年11月の大統領選挙ではマヒンダの弟であるゴトバヤ・ラージャパクサが当選し、首相にはマヒンダを任命した。そして、今回の議会選挙の勝利をもって議会をも制圧し、華々しく返り咲きを果たしたことになる。

 スリランカの政界はウィクラマシンハ前首相率いるUNP(統一国民党)と1951年にバンダラナイケが創設したSLFP(スリランカ自由党)が二大政党であったが、選挙の直前に至り、UNPは大量の離反者を出し、選挙では1議席の惨敗を喫しほぼ消滅した。ウィクラマシンハ自身も地元コロンボで議席を失った。他方、SLFPは大方ラージャパクサのSLPPに吸収されるに至っている。スリランカの政治地図は大きく塗り替わった。野党といえば、UNPから飛び出したサジット・プレマダサ率いるSJB(United National Power)が54議席を獲得して最大野党として登場した。

 かくしてスリランカは「ラージャパクサ一族の国」になった観がある。野党は脆弱で政治的に邪魔立てする勢力は見当たらない。ウィクラマシンハが率いた前政権は憲法を改正し、大統領の任期(5年)を2期に制限し、大統領権限を首相や議会との関係で弱め、選挙管理委員会のような独立機関を強化したが、ラージャパクサは憲法を元に戻すであろうと見られている。この種の状況は当然のことながら権威主義的な統治への懸念、あるいはタミール族やムスリムなど少数派の圧迫への懸念を惹起する。もう一人の兄弟バジル・ラージャパクサは、政権党としてのSLPPについて問われて、中国共産党がモデルたり得ると答えたという説がある。

 スリランカの最大の課題は経済の再建である。新型コロナウイルスには比較的巧み対処して来ている。しかし、今年度のGDPはマイナス3.2%と見込まれている。積み上がる対外債務の重圧もある。観光産業は痛手を蒙った。インフラ建設の需要は大きい。

 ラージャパクサは親中国である。マヒンダ・ラージャパクサが大統領であった時代、彼は大規模なインフラ建設を中国に頼った。クリケット場や空港を作った。一族の地元のハンバントタの港の13億ドルの建設プロジェクトも中国に頼った。後に、この港の債務は返済に行き詰まり、2017年7月より99年間にわたり中国国有企業に運営権を譲渡することとなり、中国の「債務の罠」として知られることとなった。困った時の中国頼みの誘惑は強いかも知れないが、インドや日本との関係にも目配りをし、バランスのとれた対外関係に留意することがスリランカのためになろう。

  
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