11月16日に投開票されたスリランカの大統領選挙では、マヒンダ・ラージャパクサ元大統領の実弟、ゴタバヤ・ラージャパクサ元国防次官が得票率約52%で勝利した。現与党側の対立候補のサジット・プレマダサ住宅建設・文化相は約42%の得票率であった。なお、シリセーナ大統領は、250人以上が死亡した4月の連続爆弾テロ事件への対応の不手際などから支持率を著しく落とし、大統領選挙に出馬していない。
今回の選挙でスリランカの新しい大統領に就任したゴタバヤ・ラージャパクサは、いくつかの大きな課題に直面している。
その一つは宗派対立である。スリランカは人口の75%がシンハラ人で、主に仏教徒であり、15%がタミル人で主にイスラム教徒である。仏教徒とイスラム教徒は以前から対立していたが、今年4月に起きた爆弾テロ事件がイスラム過激派によるものであったことから、事件を引き金として大規模な反イスラム暴動が起き、イスラム教徒、その財産、ビジネスが大々的に攻撃された。爆弾テロをきっかけにして反イスラム感情が噴出したと言えるだろう。ゴタバヤ・ラージャパクサ新大統領は和解を公約として表明しているが、宗派対立の根は深く、容易に解消されそうにない。
今一つの大きな課題は中国との関係である。ゴタバヤ・ラージャパクサが国防次官だった2014年、中国海軍がコロンボ港に寄港し、インドが猛反発した経緯がある。スリランカは、ゴタバヤの兄のマヒンダが大統領の時、中国の融資を積極的に受け入れ、そのうちの一つとしてハンバンドタ港の建設に着手した。しかし債務がかさみ、2017年に同港の99年間の運営権を中国企業に貸与せざるを得ない羽目となった。中国の「債務の罠」に陥ったのである。ハンバンドタ港が中国軍によって利用される恐れがある。新大統領は、そのマヒンダを首相に任命する予定であると言う。そうなるとスリランカがさらに親中の政策を取ることが懸念される。スリランカは依然として中国の資金支援を必要とするだろうが、中国とどの程度の距離を置くかが問題である。
経済運営も大きな課題である。スリランカは巨額の負債を抱えている。負債を減らすためには緊縮財政を実施しなければならないが、国民が強く要望している生活改善のためには、公共投資などに配慮しなければならない。難しいかじ取りが要求される。
スリランカはインド・太平洋で枢要な位置を占める国である。宗派対立が抑制され、治安が回復し、経済が発展することは、単にスリランカ自身にとってのみならず、地域の安定のために望ましいことである。また歴史的経緯はあるものの、スリランカの中国傾斜が進まないことが「自由で開かれたインド・太平洋」にとって重要である。日本はこれまで最大の商業港であるコロンボ港の整備など、ODAを通じてスリランカのインフラ作りを支援してきた。今後も米欧やアセアン諸国などとともに、スリランカが望ましい発展をするよう一層の協力に努めるべきであろう。
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