2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2021年4月2日

日米豪印戦略対話に
対抗して関係強化

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中で、中国とスリランカの関係は拡大することになった。20年、中国政府はスリランカに対して、マスク5万枚超と新型コロナウイルス検査キット1000セットを超える、大規模な人道・医療支援だけでなく、9000万㌦の経済支援も行ったが、「債務の罠」につながるとされる批判を払しょくする狙いがある。

 中国のこうした動きは、より大局的な「マスク外交」戦略、そして一帯一路をインフラ整備支援に限定するのではなく、パンデミックがもたらした新たな問題に対処するための「ヘルス・シルクロード」へとシフトする試みと同調している。

 また、20年10月6日、米国、インド、日本、オーストラリアの外相が行った、「日米豪印戦略対話(クワッド)」の第2回閣僚級会談の後、おそらくこの会談に対抗する狙いで、中国はスリランカとの関係強調を図る動きを見せた。20年10月9日、中国政府高官の代表団は、スリランカ大統領および首相と会談し、金融における2国間関係の拡大を協議した。金融の流動性を高めるため、100億元の通貨スワップ協定の交渉が行われた。これは4億㌦のスリランカ・インドの通貨スワップ協定の規模をはるかに上回る。

 中国中心の将来の展望がスリランカにとって何を意味するのかについては懸念が広がっており、またスリランカ外務次官はハンバントタ港の〝リース〟は「間違い」で、戦略的安全保障の観点から「インド優先」のアプローチへの修正が必要だと認めている。

 それでも、スリランカが開発支援を必要としているため、安全保障関連の要素を欠いたまま展開され、中国とのつながりは非常に重要なものとなっている。今後の進展においてはむしろ、スリランカはこの地域におけるインドと中国に対するヘッジとなることを受け入れ、両国から同時に利益を得られるよう、基本的に中立に徹し、安全保障も経済繁栄と同様に優先しようとする可能性がある。

一帯一路で観光業や貿易、
連結性は強化されたが……

 スリランカにおける一帯一路事業の中で、最も注目されるのがハンバントタ港だが、決してこれが唯一の事業ではなく、次のような事業への投資も行われている─―コロンボ-カトゥナヤケ高速道路、南部高速道路、マッタラ国際空港、モラガハカンダ開発事業、ノロッチョライ石炭発電所、マタラ-カタラガマ鉄道、コロンボ国際金融都市(CIFC、またはコロンボ港湾都市事業)など─―。

ハンバントタ港は、スリランカにおける一帯一路事業のほんの一例に過ぎない
(XINHUA NEWS AGENCY/AFLO)

 特に一帯一路の主力事業であるCIFCは投資額が150億㌦を超え、開始当初から物議を醸してきた。インドは海洋主権、およびこの事業がもたらす貿易リスクについて懸念している。CIFCは透明性の欠如、汚職、環境への影響といった観点から疑問視され、非難を受けた結果、事業は一時停止、捜査中となったが、その後16年の新協定の下で再開された。

 こうした事例は、一帯一路の根底にある意図や、参加する中小国家への影響をめぐる議論を増加させている。スリランカで問題となっている事業によって、実際、途上国における一帯一路との微妙な関係性が示され、その賛否とともに、参加国と簡単には切り離せない実態も明らかになっている。

 一帯一路のおかげで、観光業、貿易、連結性の強化を通じ、スリランカは経済の再建と発展を遂げたが、その一方で、安全保障と主権をめぐる重要な問題も抱えている。このジレンマはポスト・パンデミックにおいては、一層深刻になるよりほかない。なぜなら、スリランカは安全保障面での懸念があっても、中国への依存を、その度合いを増さないにしても、継続するしかないからだ。

 一帯一路での「債務の罠」外交に懸念を抱くのはもっともだが、スリランカはその「罠」にまだ完全に陥ったわけではない。中国への債務は合計で、スリランカの国内総生産(GDP)の6%ほどだ。とはいえ、多額の債務残高を抱えていることは、スリランカには債務管理の枠組み改善が必要であると示している。

 コロナ禍で一帯一路事業に遅れが発生しており、コロンボ港湾都市事業は特にパンデミックによる複数の問題に直面している。このような状況にある今こそ、スリランカにとって時は熟したと言える。債務管理能力を強化し、将来の一帯一路での取引において、それに準じた戦略を実行すべきだ。

 コロンボ港の開発を加速させた、コロンボ国際コンテナターミナル(CICT)をはじめ、スリランカ経済に大きく寄与した事業もある。しかしながら、スリランカでの一帯一路事業のため、中国からの輸入が増えたことで、対中貿易赤字が拡大しており、スリランカにとっては、資金の流入や、インフラ建設以外に得られるメリットは限られている。一帯一路事業のほとんどを、地元の事業者ではなく中国系企業と労働者が行っているため、スリランカ人労働者のスキル向上をもたらすような、知識の移転もごくわずかだ。

 一帯一路の下での取引において、今後はこうした要素も検討せねばならない。スリランカにとって、より包括的な利益を得られる、有利な形の協定を結べるよう交渉することが必要だ。

 スリランカのような島国にとって、国内で中国が実施する事業が及ぼす環境への影響も大きな懸案事項となってきた。だが、中国自身が持続可能な開発を重視する方向にシフトしていることにより、その影響は是正され始めている。その証左に、中国が最近発表した「新時代における中国の国際発展協力」白書では、丸々1章分を割いて、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に貢献するための目標について述べている。

 以前の開発事業は環境破壊につながることが多かったが、CICTやコロンボ港湾都市事業などの最近の事業は、「グリーン・シルクロード」の名の下、より厳格な環境基準を満たすよう調整されている。信頼に値する、高い水準の気候変動対策および環境ガイドラインを保証するため、スリランカはグリーン投資家からの追加の出資を求めるとともに、国内規制の強化を行わなければならない。


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