2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2021年3月26日

 中国が進める「一帯一路」構想を「債務の罠」と批判する論者はラオスの「中国ラオス鉄道」に注目している。果たして、この批判はどこの国でも共通して当てはまるのだろうか。

ラオス山中を貫き建設が進む中国ラオス鉄道。中国が7割、ラオスが3割を出資する合弁会社が建設・営業を担う (XINHUA NEWS AGENCY/AFLO)

 中国ラオス鉄道は、中国国境沿いのルアンナムター県ボーテンと、首都ビエンチャンを結ぶ414㌔メートルの単線鉄道で、国内に鉄道網をもたないラオスにとっては建国以来の悲願を叶える国家事業だ。約60億㌦の総事業費は国内総生産(GDP)の約3割に達する。

 この中国ラオス鉄道について、ラオスにとっての「債務の罠」になるのではという見方も多い。しかし、実際には中国が事業採算性に疑問を呈し、慎重な姿勢で臨んだとの見方がある。

 そもそも日本人にとってラオスは、それほど馴染みのある国ではないだろう。ラオスは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国で、日本の本州ほどの国土に700万人が暮らす、インドシナ半島に位置する内陸国である。

 また、マルクス・レーニン主義を掲げる人民革命党を唯一の指導政党とする社会主義国でもあり、その成り立ちの経緯から、1975年の建国以来、ベトナムとは指導政党間の連帯を基礎に兄弟関係とも呼ぶべき絆で結ばれている。年初には、ラオス人民革命党とベトナム共産党が、それぞれ5年ぶりの党大会で新指導部を選出した。人民革命党幹部にはベトナムで教育を受けた者が多い。最高指導者である書記長も、歴代5人のうち3人がベトナムに留学している。政治理論研修等を目的とした人的交流も続いている。

 ラオスは80年代半ばまでソビエト連邦からの支援に依存していた。中国との関係は、79年の中越紛争時にラオスがベトナム陣営を選び、一時断絶した。しかし、ソ連圏が崩壊し、中国の社会主義市場経済化が加速するとラオスは中国に頼る方向に舵を切る。貿易・投資・援助関係は拡大の一途をたどり、最近では輸出の3割、輸入の2割、直接投資の7割、対外債務の5割を中国が占めている。

 ラオスにとって中国は、社会主義理念を共有する同志で、経済的にも圧倒的な存在である。しかし、これは中国に対しての「属国」化を意味しない。ラオスは、ベトナムと特別な関係を堅持したうえで経済開発のため中国との実利的関係を深めている。一帯一路が打ち出されると、中国との一致した利害が関係緊密化を加速した。

 その中で進んだのが中国ラオス鉄道である。中国との建設合意は2010年4月の覚書締結に遡る。12年10月には国民議会が臨時国会で中国輸出入銀行の融資を前提とする事業実施を承認し、その直後に両国政府間の協力文書が結ばれた。起工式は、15年12月の建国40周年記念式典に合わせ、党・国家指導者臨席のもと行われ、16年末に着工した。21年12月の建国46周年を記念した運行開始を目指し、すでに9割以上が完成している。

(出所)各種資料を基にウェッジ作成 写真を拡大

 筆者は、18年から20年3月にかけて、国際協力機構(JICA)とラオス国家経済研究所によるラオス財政安定化共同政策研究対話プログラムに加わり、ラオス政府への政策提言とりまとめに携わった。ラオス財政当局との意見交換の中心テーマは、膨大な対外債務と、財政健全化であった。

 現在に至るまでラオスはGDPの6割に達する対外債務を抱えるなど、厳しい財政状況にある。その原因について筆者はラオス政府に対し、世界的な過剰流動性を受けたタイ債券市場での安易な起債、一帯一路に沿った投融資の拡大、BtoB(企業間)取引とも称される合弁事業モデルへの依存などによる、財政規律の緩みだと指摘した。

 もっとも、中国との合弁事業の最たるものである中国ラオス鉄道については、建設が急ピッチで進む中、長年にわたるラオス悲願の国家事業を否定的に論じることははばかられた。


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