WEDGE REPORT

2021年3月26日

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西沢利郎 (にしざわ・としろう)

東京大学公共政策大学院教授

東京大学経済学部卒業。米ウィスコンシン大学修士。国際通貨基金(IMF)、国際協力銀行などを経て、2013年より現職。18年~20年3月、ラオス財政安定化共同政策研究対話プログラムに加わり、ラオス政府への政策提言とりまとめに携わった。

中国に迫る「債権の罠」
日本が一帯一路と向き合うには

 こうして採算の目途が立たぬまま建設が強行された中国ラオス鉄道だが、債務に脅かされているのはなにもラオス政府だけではない。

 中国ラオス鉄道は、中国が7割、ラオスが3割を出資するラオス中国鉄道有限公司(LCRC)が建設・営業を担う合弁事業である。国有企業出資による合弁事業は、形式的にはBtoB取引であるが、実質的なリスクは株主たる政府が負う。万が一にも事業が破綻すれば融資元の中国輸出入銀行は不良債権を抱える。そうなれば、債務・株式交換などによる中国主導の債務救済に向かう可能性が大きい。不採算事業は、中国にとっては「債務の罠」ならぬ「債権の罠」になりかねない。

 中国では地方政府傘下の投資会社(融資平台)が進めたインフラ投資に伴う「隠れ債務」が問題視されて久しい。一帯一路が投資効率無視の事業を推進すれば、中国政府は内外で双子の難題を抱える。投資効率を見極め、債務の持続可能性を精査したうえで事業推進に取り組む姿勢を期待したい。

 では、今後のラオス・中国関係はどうなるのか。1月15日、ラオス人民革命党は党大会でトンルン・シースリット首相を書記長に選出した。その翌週、同書記長は習近平氏との電話会談で、中国・ラオス経済回廊構想推進を確認した。2月1日にベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長の続投が正式発表されると、その翌日には電話会談で、指導政党間の特別な関係を確かめ合った。中国の圧倒的な経済的存在感とベトナムとの特別な絆との間でラオスは絶妙なバランス感覚を発揮する。

 日本では、外交・安全保障の観点からの対中警戒、一帯一路の文脈での「債務の罠」批判が合言葉のようだ。しかし、こうした紋切り型の現状認識では、ラオスが直面する課題や周辺国との複層的な関係を見落とし、思考停止に陥る。勧善懲悪に色分けして踏み絵を迫るのは外交ではない。むしろラオスのバランス感覚としたたかさに学びたい。

 一帯一路のもと国有企業という持ち駒を使う中国は有利であるかにみえるが、経済合理性を欠く事業は危うい。ビジネスの論理を飛び越え、政治的な思惑のみが先行するインフラ事業推進は、いかなる国においてもリスクを内包し、思惑と相反して将来世代の負担となりかねない。

 では日本に何ができるか。例えば、ラオスの自然・文化遺産を保全しつつ、分散型のエコツーリズムと関連産業を振興すれば、中国ラオス鉄道の採算性向上にも貢献できよう。それはラオスへの支援となるだけではなく、中国の莫大な投資を日本がしたたかに活用する好例となるのではないか。

 景気よく花火を打ち上げるよりも、こうした地味でも長期的に成果が期待できる分野で存在感を出していくべきだ。

 
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