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2021年3月26日

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西沢利郎 (にしざわ・としろう)

東京大学公共政策大学院教授

東京大学経済学部卒業。米ウィスコンシン大学修士。国際通貨基金(IMF)、国際協力銀行などを経て、2013年より現職。18年~20年3月、ラオス財政安定化共同政策研究対話プログラムに加わり、ラオス政府への政策提言とりまとめに携わった。

貨物輸送も期待できず
不採算が定められた鉄道 

 しかし、中国ラオス鉄道の採算性には懐疑的な見方が多い。メコン域内の交通網に詳しいタイ人専門家に尋ねると、輸送コスト・時間の削減には資するものの、採算性は低いという。中国ラオス鉄道と同様に、中国との合弁事業として並行して建設中の中国ラオス高速道路は、20年12月に一部開通している。将来的に全区間が開通すれば、需要を食い合うのは避けられないだろう。

 旅客輸送ではなく貨物輸送として考えた場合はどうか。仮にビエンチャンから国境のボーテンを経由して雲南省の省都昆明をつないだとしても、生産拠点を結ぶ大規模物流は期待できそうにない。

 現在、首都ビエンチャンの中心部から15㌔メートル北東、中国ラオス鉄道貨物駅に隣接する広大な敷地では、経済特区「サイセター総合開発区」の整備・開発が進む。雲南省海外投資有限公司が75%、ビエンチャン都が25%を出資するラオス・中国共同投資有限公司が、「産業開発区+ビエンチャン新都市」との理念を掲げ開発・運営を担う。日本企業では、すでにHOYAがハードディスクドライブ用ガラス基板の製造を始めている。

サイセター総合開発区近くに並び立つ、真新しい集合住宅群。中国人労働者を招き入れても地元からの反発のリスクがある。いったい、誰が住むのであろうか
(筆者撮影)

 これまでASEAN諸国は、外国企業誘致を梃子に輸出志向の労働集約型製造業を発展させてきた。これらがサイセター総合開発区のモデルである。この他にもラオス国内には10の経済特区が設定されている。ここから、中国ラオス鉄道を生かした雲南省向けの輸出も期待されているだろう。

 しかし、700万人がまばらに分布するラオスでは、ベトナムなどとは違い労働力の安定確保は容易でない。中国人労働者の流入は、社会的反発・軋轢リスクを孕む。中国ラオス鉄道を貨物輸送に活用するには、課題が山積しているのが現状だ。

 また、中国からインドシナ半島を縦断してタイ、マレーシア、シンガポールと結ぶ壮大な構想は、遠い将来への期待にすぎない。同じく一帯一路の中でタイ高速鉄道の建設計画が進行中だが、ラオスまでの延伸計画に動きはない。仮に延伸したとしても、規格が違うタイ高速鉄道と接続するには追加コストがかかる。

 こうした採算性への懐疑にもかかわらず、風向きを変えたのは一帯一路の存在だ。筆者は数年前、ある中国人外交官から中国ラオス鉄道建設の経緯について「中国は当初慎重であったが、ラオス側からハイレベルの働きかけもあって政治的決定がなされた」と聞かされた。

 ラオスでの一帯一路においては、ハイレベルの人脈も推進力となっている。17年11月、習近平国家主席は、ビエンチャン訪問時にキニム・ポルセナ元外務大臣(故人)一族と会見した。メディアは習氏の発言を「一族は中国の良い友人である。両国の友好事業を受け継ぐ未来である」と報じた。ポルセナ一族には習氏が通った北京市八一学校の同窓生がいるという。16年まで20年以上、外務大臣や副首相として対中・対ASEAN外交を推進したソムサワート・レンサワット氏も、一帯一路で大きな役回りを演じたはずだ。ポルセナ一族とレンサワット氏はともに華人である。

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