2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年12月16日

 台湾の蔡英文政権は11月20日に、米国駐台湾代表処(AIT)との間で初の「経済繁栄パートナーシップ対話」を開催し、今後5年間にわたる覚書に署名した。その内容は、米台間の経済協力強化だけではなく、米台のアジア・太平洋地域への共通の取り組みを模索するものとなっている。

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 Taipei Timesの11月28日付け社説は、「中国は過去数年、東南アジアやオセアニアに対し、米台を排除する方向で、投資を拡大してきた」と述べている。そして、米台としては、東南アジア、オセアニア諸国に対する今後のインフラ支援やサプライチェーン面での協力を通じ、これら諸国の対中依存の脱却を図るべし、と論じている。興味深い内容であると言える。

 中国は「一帯一路」政策を通じ、カンボジア人を土地から追い出し、環境を破壊して地域物流拠点を作り、また、スリランカでは、融資を返済できないことの対価として主要な港湾を買収するなどしてきた。台湾、豪州、ニュージーランド、米国にとって、南アジア、東南アジア諸国におけるインフラ支援から、大きな利益を得ることができる。それは、これらの諸国を対中国依存から解放し、生産活動を友好的なサプライチェーンに多様化してゆくことである。

 蔡英文政権自身、台湾が中国との間の貿易・投資の対中依存度を下げる方向で、台湾企業を中国から東南アジアへ移行させるという、いわゆる「南向政策」を進めてきてからすでに数年になる。しかし、数字から見る限り、台湾経済の中国依存度はその後も基本的には大きくは変わっていない。

 台湾の企業からすれば、中国の意に沿わない方針を取れば、中国がそれを利用して、台湾企業への締め付けを強化するのではないかとの警戒意識があるため、慎重にならざるを得ない面があるのだろう。かつて陳水扁・民進党政権下で、当時中国に進出していた台湾の「奇美企業」が「台湾独立派」であるとして、中国での営業活動から排除されようとしたことがある。このケースは台湾の関係者の記憶にはいまだ鮮明に残っているようだ。

 ただし、台湾の企業自身が中国市場への依存度を徐々に減らしていくためにも、「南向政策」を続け、米国と一緒になって、対アジア・太平洋政策を促進することは、中国の拡張主義を抑止するための安全保障上の重要な手段であることに変わりはなく、今日、台湾内部においてもそのような見方が強まっていると言って良い。

 米台間のさらなる緊密化は日本にとっても、懸案となっているTPP(環太平洋経済連携協定)への台湾加入を促進する良い機会となろう。最近は、中国自身がTPPに加入することについて意欲を示し始めたが、これは、米国の政権交代や、台湾のTPP加入の可能性等に対する警戒感や牽制から出ているのではないかと思われる。

  
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