11月3日~6日、さらに11月17日~20日、日本の海上自衛隊は、インド洋及びアラビア海域にて、日米豪印(クワッド:4か国)の海軍共同訓練「マラバール2020」に参加した。インド洋ベンガル湾での訓練では、海上自衛隊の護衛艦「おおなみ」が、他3か国の駆逐艦、フリゲート艦等と海空演習を行った。アラビア海では、護衛艦「むらさめ」が参加した。インドや米国の海軍は空母も参加して行われた。
これに関して、11月25日付けの米フォーリン・ポリシー誌で、同志コラムニストのSalvatore Babones(バボネス)は、今のNATO(北大西洋条約機構)は軍事的というよりは政治的な組織で、クアッド(Quad:日米豪印4か国協力)をアジア版NATOと呼ぶのに問題はない、と述べている。
バボネスの論説は、クアッドはアジア版NATOと称されるが、今日のNATOは冷戦期のNATOとは異なり、軍事面ではテロ対策、サイバー安全保障、弾道ミサイル防衛といった分野が主で、それ以上に軍備管理、エネルギー安全保障、環境といったより政治、社会的な分野で活動しているので、アジア版NATOと称されても特に懸念する必要はないだろうと言っている。
NATOは、そもそもソ連の軍事的脅威に対処するために創られたものであるが、今のロシアの軍事的脅威がないとは言えないが、冷戦期とは比べものにならないので、NATOの任務が変質したのも当然と言える。しかし、論説が説明しているように軍事色が薄まり、政治、社会的任務が増えているとはあまり認識していなかった。
クアッドは、海軍の演習などはしているとはいえ、軍事同盟ではない。そもそもは中国を意識して作られたものであることは確かであるが、中国との対決を前面に出しているものではない。一般的には、中国の出方は論説の言及している「サラミ戦術」で、小さな行動を積み重ね、時間の経過とともに有利な戦略的環境に変化させるというものである。尖閣諸島、南シナ海における中国の行動はこのようなものである。それに対しては、普段から警戒を緩めず、中国の小さな行動にその都度適切に対応していくことが重要である。クアッドも、この点を念頭に置いて中国に対処すべきであろう。
さらに、論説も指摘しているように、ベトナム、韓国、台湾といった関係諸国、地域との協力も重要である。中国はこれらの国、地域に各種の圧力を加えている。クアッド4か国はこれらの国、地域と連携して中国の圧力に対処すべきである。
日本にとってクアッドは重要な連帯である。そして、中国とは正面から対決するのではなく、中国の「サラミ戦術」に適合した方法で中国に対処するというのも、日本の考え方に合うものである。
米国は、中国との対決姿勢を強めているが、これはトランプ政権だけの問題ではなさそうである。米議会、世論とも中国に対する批判を強めている。次期バイデン政権は、トランプ政権のような対決姿勢は示さないだろうが、議会、世論の中国批判は踏まえる必要がある。
日本は、次期バイデン政権と中国政策について十分すり合わせをする必要がある。同様に、日本は今後ともクアッドの協力強化に努めるべきであろう。
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