11月3日の米大統領選で選出されたバイデン次期政権の外交政策の中で最も注目されるのは、やはり対中政策である。トランプ政権下で米中関係は「米中新冷戦」と称される厳しい対立に至った。そうした中、ここ数か月、種々の米中冷戦論やそれへの反対論が出されてきている。
10月30日付けのフィナンシャル・タイムズ社説‘Stopping the descent into a new cold war’は「新冷戦への漂流を止めるためには、特に中国が、しかし、米国も基本的に変わることが必要である」と指摘する。社説は、米中関係悪化を止める一義的な責任が中国にあることを直截に指摘するとともに、中国がとるべき具体的措置として、攻撃的対外政策を止め、オープンな国内政策をとること、台湾や南シナ海での緊張を下げること、経済活動を国家安全保障に従属させないことなどを挙げている。これらの措置は全て至当なものだ。国際紛争において当事者間の責任の寡多を議論することは微妙な事柄だが、社説の指摘は適切である。
他方、社説は、米国にも注文を付ける。中国の発展、繁栄の権利を認める、貿易赤字への執着は止める等の指摘は、いずれも至当だ。長期的に見れば、中国の巨大な規模そのものがもたらす国際政治上のインパクトをどうするかという問題は残るが、それは中国の振る舞いが変わるかどうかと相俟って今後の問題となる。
環境などグローバルな問題について中国との協力をできる限り進めることは当然ではあるが、習近平政権が強硬、膨張的な政策を推進している以上、当面中国との関係に冷戦的な要素が増えることは止むを得ない。中国が変わらない限り今まで通り善意の関係を継続することは難しいであろう。ここ1年、世界の多くの国の対中国観は厳しくなっている。
バイデン政権は、気候変動等で中国と協力しようとするだろうが、中国は敵対国であるとのトランプ政権の基本的考え方は変わらないだろう。ただし、バイデン政権は、多国間主義の軽視や敵視といったトランプ政権の誤りを正していくことになろう。おそらく米国はより広範なパートナーを動員できるようになり、中国に対する米国の立場は、トランプ政権下におけるよりも強まり得る。バイデン政権はトランプ政権よりも上手く米中関係を管理できるかもしれない。
なお、今の米中関係を米ソ冷戦になぞらえるのは適切かどうか、議論の余地がある。フィナンシャル・タイムズ紙のギデオン・ラックマンは、10月5日付けの記事で、以下のような指摘をしている。今の米中関係は米ソ冷戦と極めて類似しているが、米中の緊密な経済社会関係やソ連とは異なる大きな中国の経済力を見ればアナロジー(類似性)は当たらない、と一部学者は言う。別の学者は、むしろ1914年前の英独に類似すると言うし、日本では大戦前の日米だという見方もある。核時代の前だったが、英独や日米は戦争になった。
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