バイデン政権が成立すれば米国はトランプ政権と比べると対中国「融和路線」をとるのではないか、との危惧の念をもって同政権を注視する台湾人は少なくない。そうした懸念に対し、台北タイムズの11月13日付け社説‘Biden presidency not to be feared’は、トランプ政権4年間のみならず、これまでの米国の対中政策の大きな流れを回顧し、バイデン政権へ移行しても、米国の中国に対する厳しい姿勢には変わることはなく、台湾としては心配するには及ばない、と論じている。
トランプ政権下での対中国政策の分岐点となったのは、ペンス副大統領及び、ポンペオ国務長官による、「対中国関与政策への決別」を鮮明にしたスピーチである。1970年代以来の米国の対中国政策の根幹には、中国への「関与」を続ければ、やがて中国は自由で対外的にも開かれてきて国際協調路線を取るようになるだろう、という期待感があった。これに対し、ポンペオは「習近平は今や全体主義の奉仕者になってしまった」と述べている。
バイデン政権下において、このようなトランプ政権下での「対中関与政策への決別」という政策が、それを如何なる名前で呼ぶにせよ、どのように取り扱われることとなるのか、注視されるところである。
トランプ政権誕生直後に、蔡英文総統はトランプ大統領に直接祝意を伝達する機会を持ち、電話会談を行った。このことに中国は激怒したが、1979年の断交以来、米国大統領が台湾の総統と電話で話し合ったのはそれが初めてのことだった。台湾の人々は、それを嚆矢としてトランプ政権下で米・台湾関係は「未知の領域」に突入したと感じたようである。それは、最低限、中国の言う「一つの中国」原則を打ち破るものであった。
この電話会談が象徴するように、トランプ政権と台湾の関係は目に見えて強化され、本年8月には米保健社会福祉庁長官アザール(閣僚)が訪台した。米国の台湾への武器輸出も拡大し、過去4年間で170憶米ドル相当の売却が成立した。この武器のなかには地対空ミサイルも含まれており、中国大陸対岸の福建省の海空軍力への先制攻撃能力も含まれている。
他方、今日の米国においては、台湾に対する政策は、台湾への支援強化に超党派の支持がある。例えば、民主党といえども、「台湾旅行法」や「国防授権法」などの採決に賛成したために、米上下両院の決議として成立した。
米国の台湾政策は、民主党政権下とはいえ、1996年のビル・クリントン政権下で「台湾海峡危機」にあたって、二隻の空母を台湾海峡に派遣し、中国の動きを牽制したことがある。その時、中国はなすすべなく後退した。オバマ政権においては、名前だけにおわってしまったが、「アジア回帰」の戦略を打ち出した。
上記社説も言うように、このような米民主党政権下における数々の台湾への米国のコミットメントを回顧すれば、バイデン政権としても中国の脅威に対抗する台湾への支援を容易に変えるということはあり得ないのかもしれない。
中国は最近、頻繁に台湾海峡において海空軍力を使って、蔡英文政権への威嚇を強めつつあるように見える。習近平は軍に対しいつでも戦闘態勢に入ることが出来るよう準備を怠るな、との指示を出した。この指示は、台湾を名指しこそしてはいないが、その意図がどこにあるかは今日の中台関係から見て明白であろう。なお、米インド太平洋軍の情報部門のトップ、マイケル・スチュードマン少将が非公式に訪台したことを11月22日に台湾当局者がロイターにリークしたと報じられている。中国による威嚇に対する牽制と見てよいだろう。
日本にとっても多くの課題がある中、日本として台湾に協力できることは何か。まず、日台間の人的交流のレベルを上げることを考えるべきだろう。それは、米国上下両院で「台湾旅行法」が採択され、米台間の人的交流のレベルが引き上げられたことに対応する。自由、民主、人権の諸価値を共有する日台間において、よりハイレベルの交流が行われることは台湾にとっても、日本にとっても極めて望ましいことである。
さらに、台湾の中国への経済依存度が低下する方向に向け、TPP(環太平洋経済連携協定)への台湾の加入を日本が主導することは、現在、台湾が有する経済規模から見て、アジア太平洋の国々にとっても必要不可欠なことと思われる。今日、台湾の有する民主化のレベルと経済規模はアジア・太平洋において既に無視しえない、重要な資産となっている。
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