世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年11月4日

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 10月13日付けのニューヨーク・タイムズ紙は、Ruchir Sharmaの「ベトナムは次のアジアの奇跡となるか?」という論説を掲載している。論説は、(1)世界が経済縮小に苦しむ中、ベトナムの経済成長率は3%程度と見込まれていること、(2)世界貿易崩壊の危機の中で多額の貿易黒字をあげていること等に触れつつ、ベトナムが日本、韓国、台湾に続く「アジアの次の奇跡」になる可能性に言及している。同時に、世界情勢の変化や独裁的政治体制、国有企業の赤字等、ベトナムが「次の奇跡」を実現するための課題も指摘している。

sarayut / iStock / Getty Images Plus

 ベトナムは過去2年続けて7%以上の経済成長を記録した。また、外国直接投資も2017 年以降大きく増加し、昨年は過去最高額(391億ドル、認可ベース)を記録する等、対越投資ブームが起こっている。更に、新型コロナウイルスでサプライ・チェーンの見直しが重視される中、ベトナムへの注目度がこれまで以上に高まっている。人口も過去10年間で約1千万人増加し、今後数年は毎年90万から100万人増加すると見込まれている。

 現在のベトナムは、若者と経済成長のエネルギーに満ち満ちており、更なる発展に向けて「歴史的チャンス」を迎えている。その一方で、「持続的成長」を達成して「次の奇跡」を実現するためには数多くの課題がある。

 論説で指摘されている貿易黒字は、昨年111億ドルであったが、中国と韓国とは大幅赤字、米国とEUとの間では大幅黒字という構造である。昨年の対米黒字額は約470億ドルであり、米国から見ると、中国、メキシコ、日本、ドイツに次ぐ5番目に赤字額の多い国である。米越関係は日米関係と同様に政治・安全保障分野では多くの戦略的利益を共有するが、貿易ではベトナムは米国からの強い赤字削減圧力にさらされている。

 また、ベトナムの輸出入の60%以上を外資が担っている。特に、サムスンは2009年にベトナムに進出して以降、170億ドル以上の投資を行い、従業員は約16万人、サムスン製全スマホの半分はベトナム産であり、ベトナムの輸出総額の約25%はサムスン製品である。

 ビングループ、BRGグループ等ベトナムの民間企業も育ってきているが、事業の中心は未だ不動産開発であり、製造業も含めた競争力のある地場産業の育成が不可欠である。加えて、国有企業の更なる民営化、エネルギー及び都市交通等のインフラ整備、資産格差の是正、公務員給与の引き上げ(低給与が汚職蔓延の一因)等が大きな課題である。

 ベトナムがより強く経済的にもより繁栄した国となることは、地域全体の安定にとってとても重要であり、日本は官民を挙げてベトナムとの連携強化に努めている。

 10月18日~20日、菅総理は、就任後初の外国訪問先として、ベトナムを訪問した。ASEAN(東南アジア諸国連合)、とりわけベトナムとの関係を重視している証である。菅総理のベトナム訪問は、安全保障分野、技能実習などの人材交流に加えて、経済分野の協力(特に投資、人材育成)を深化させる上で重要な機会であった。

 なお、ベトナム共産党と中国共産党は、「器」は似ているも「統治の中身」は大きく異なる。ベトナムでは中国のような「強権政治」は行われていない。「国民第一主義」とも呼べる統治である。

  
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