世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年8月26日

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 昨年11月に2020年のASEAN議長国に就任したベトナムは、一貫した対中政策をとり、ASEAN内における存在感を高めている。また、最近の中国の攻撃的姿勢は、ASEAN各国の危機感を高め、対応に変化を生んでいる。こうした状況を、豪戦略政策研究所(ASPI)のHuong Le Thu上席分析官は、Foreign Policy誌(電子版)7月31日付けの論説で的確に説明している。その主要点をかいつまんでご紹介すると、次の通りである。

Oleksii Liskonih / taa22 / iStock / Getty Images Plus

・ASEANの多くの国が、インドネシアに代わるASEANのリーダーとして、ベトナムより適切な国はないと考えるようになっている。

・ベトナムは、南シナ海問題に関しては、実際の最前線国であり、北京と激しい争いをしているが、同時に、ベトナムは地域問題においてASEANの役割を真に重視する数少ない国の一つでもある。

・ベトナムは、海洋紛争において前線の立場を維持し、他のASEAN諸国から外交的に孤立することもあったが、報われつつある。今年、ベトナムが議長国として指揮した第38回ASEAN首脳会議の共同声明は、いつもの曖昧な内容と異なり、南シナ海における中国の行動を念頭に、最近の出来事に対する懸念を表明するとともに、信頼が侵食され、緊張が増し、地域の平和と安全・安定が傷づけられている、と明記している。さらに、声明は、国連海洋法条約(UNCLOS)が海洋権益を決定し、海洋の主権、管轄権、正統な利益を決める基礎である、と強調している。

・中国の「やりすぎ」が大きな流れを変えたとも思われる。この数か月間に、マレーシア、フィリピン、インドネシア、さらに豪州及び米国などが、中国の主張はUNCLOS並びに2016年のハーグ仲裁裁判所の判決と矛盾すると表明した。これは、南シナ海問題をあくまでも国際化することに努め、また、二国間問題ではなく、「地域の安全保障問題」にしようとしてきたベトナムの政策の成功の証しともみなされよう。

出典:‘Vietnam Steps Up to Take ASEAN Leadership Role’(Huong Le Thu, Foreign Policy, July 31, 2020)

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 中国による南シナ海における人工島造成と軍事拠点化は、2014年以降、急速に進んだ。 また、中国は「ASEAN分断化」を進め、カンボジアを代弁者とするとともに、フィリピン、インドネシア、マレーシアと政治指導者交代の機会を活用しつつ、経済権益の供与を通じ、また、シンガポールに対しては徹底した嫌がらせを通じて、「対中批判」を封じ込めることに成功してきた。その結果、気が付けば、中国に対して厳しい姿勢を表明する国はASEAN内でベトナムのみとなった。その一方で、安全保障分野においてベトナムは日米両国にとって最も信頼できるパートナーとなった。

 しかしながら、昨年末からの南シナ海における中国の一連の攻撃的な動きは関係国の危機感を覚醒させ、対中批判を再開させる契機となった。 更に、新型コロナウイルス問題、香港、台湾、東シナ海、豪州、インド、ブータン等に関する中国の言動は、対中警戒感を高める要因となっている。

 米国が中国の九段線の主張は違法であると明言し、「中国共産主義との対決」 を宣言したことを、ASEAN各国は基本的に歓迎していると思われる。 しかし、同時に、多くの国にとって中国(人)は 最大の貿易相手国、最大の外国人観光客であること、また、新型コロナウイルスに関し、一部の国では ワクチンの入手を中国に期待していること等を勘案すると、米中の狭間で出来るだけ「立ち位置」を曖昧にし、「踏み絵」を踏まないように立ち回ろうとする国もあると考えられる。しかし、ベトナムは、敢えて明言はしないかもしれないが、中国に毅然とした態度をとるという、その「立ち位置」は明確である。

 東アジアの将来にとってASEANはこれまで以上に重要であり、日本のASEAN外交は、これから「正念場」を迎えると考えられる。その際、当然、ベトナムはカギを握る国となるだろう。

  
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