世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年1月6日

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 11月25日、ベトナムの国防省は「2019年ベトナム国防白書」を公表した。ベトナムの国防白書の発表は、2009年以来、10年振りになる。これにより、ベトナムの国防政策の透明化が図られた。軍事予算も公表され、2018年のベトナムの国防費は58億ドル(約6300億円)とされ、これは国内総生産(GDP)比では2.36%にあたる。

 今回公表されたベトナムの国防白書に記述された南シナ海に関するベトナムの立場、考え方には、全体として特に目新しいことはない。ただ、10年ぶりに国防白書を公表し、その中で南シナ海問題を詳細に論じることにより、ベトナムの基本的考えを改めて強調し、世界にアピールすることが目的であったと言えよう。それは、この問題についてのベトナムの危機感を表すものである。アピール先の世界とは、第一に、ベトナムの立場を理解する米国、日本などの西側諸国である。第二には、紛争相手国の中国である。第三は、本来はベトナムの仲間ながら、カンボジアのように中国の代弁者のような国もいて、なかなかベトナム支持でまとまってくれない ASEAN(東南アジア諸国連合)であろう。 

 南シナ海におけるベトナムと中国の紛争の歴史は古い。例えば、西沙諸島(別名パラセル諸島)では以前より中越間の武力衝突があり、1974年には中国が最後のベトナム軍を追放し、中国軍の駐屯地を設営している。一方、ベトナムは、2018年に総工費180万ドル(約1億9000万円)をかけてパラセル博物館を建設し、パラセルがベトナム領であることをアピールしている。 

中国・ベトナム間で衝突が起こった西沙諸島(別名パラセル諸島)(PeterHermesFurian/iStock / Getty Images Plus)

 2007年には、中国艦船がベトナム漁船を銃撃する事件が起きた。2017年には、ベトナムがスペインの石油大手レプソルに南シナ海での石油開発権を与えたが、中国の圧力で開発を断念している。本年2019年7月、中国の海洋調査船が海警局の艦船を引き連れてベトナムのEEZ(排他的経済水域)に入り、ベトナムが抗議したところ、10月に作業が終了したとして退去した。 

 南シナ海の紛争に対処するため、ASEANと中国はかねてより南シナ海の行動規範を作るべく話し合いを行い、本年11月の首脳会議で行動規範の今後2年以内の策定を目指す方針で一致した。ただしASEANが国際海洋条約に基づいた規範を求めているのに対し、中国は法的規制のないものを目指しているなど、両者の見解がどこまで一致しているかは定かでなく、行動規範が合意されるとしても同床異夢的なものになる恐れがある。 

 ベトナムは、南シナ海をはじめとして中国の軍事的脅威を受けている。国防白書が「ベトナムは海軍、沿岸警備隊、国境警備隊、国際機関の艦船がベトナムの港を訪問したり、修繕、必要物資の調達のためベトナムの港に立ち寄ったりすることを歓迎する」と述べているのは、中国の脅威に対する一つの牽制とみてよいだろう。 

 日本にとってベトナムは国際海洋の法的原則の遵守で利害を同じくするなど、東南アジアで重要な友邦国であり、ベトナムとの戦略的関係の強化は必要であろう。本コラムの2018年6月15日付「中国と粘り強く戦うベトナム、日本ができること」でも触れたが、日本とベトナムは共に「自由で開かれたインド太平洋地域」を推進する海洋国家である。既に日本は、ベトナムに対して海上保安庁やJICA等様々な機関を通じて、海洋の安全保障に関する国際協力を行なってきた。能力構築支援等、中長期的に継続することによって成果があがるものもある。今後もこれらの支援を維持、発展させることが、インド太平洋地域の平和と繁栄につながるだろう。

  
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