世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年6月5日

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 5月14日付のフォーリン・ポリシー誌に、米国のシンクタンク、アトランティック・カウンシルのロバート・マニング上席研究員とハドソン研究所アジア太平洋安全保障チェアのパトリック・クローニンが連名で寄稿し、世界の目がCOVID-19に向いている中、中国が南シナ海への進出を強化していると警告し、米国が地域の海洋国の連合を作るためにリーダーシップを発揮する必要性を説いている。

danielvfung//iStock / Getty Images Plus

 4月18日、中国は新たに2つの行政区(西沙区と南沙区)の設置を一方的に宣言した。人工島と恒久的に水中にある55の地形を含む80の島と岩礁に名前を付けた。この行動は、南シナ海の140万平方マイルを支配しているという既成事実を作るためである。中国はこの1年間、人民解放軍の艦隊、中国海警局、海洋民兵の3つを用いて、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンの海域で圧力を高めた。中国はインドネシア領ナトゥナ諸島周辺で違法漁業を続けている。さらに4月、中国の測量船が中国海警局の艦艇に伴われ、マレーシアの排他的経済水域(EEZ)内で同国エネルギー大手ペトロナスが操業する探査船に嫌がらせをした。昨年も中国はベトナムに対して同様の妨害をして対立が生じた。中国がマレーシアとベトナムの石油・ガス事業を混乱させ、徐々に阻止し、両国の領有権の主張を消し去ろうとしているのではないかとの懸念が生じている。

 上記の論説は、南シナ海を実効支配しようとする最近の中国の動きは取り返しのつかない転換点に近づいていると述べ、警鐘を鳴らしている。この警鐘には改めて耳を傾けるべきだろう。

 南シナ海での中国の行動の被害を蒙っているのはASEAN(東南アジア諸国連合)諸国であり、中国はASEANに挑戦している。ASEAN諸国は、中国の南シナ海への進出を警戒しているが、ASEANの意思決定が全会一致主義なので、中国の進出の直接の利害関係国の主張が認められず、中国に対し強い態度を示せないでいる。ASEANの意思決定の全会一致主義は、南シナ海に対する中国の進出問題に限らず、以前から問題視されてきており、論説もASEANは意思決定プロセスを再構築する必要があると言っているが、全会一致主義を変えるには全会一致の賛同が必要であるという皮肉な事実のため、未だに再構築されていない。中国関連ではカンボジアとラオスが親中国であり、中国に対する強い政策の採択に反対していて、ASEANが南シナ海に対する中国の動きをけん制することは期待できない。

 ただ中国の南シナ海進出の直接の被害を蒙っているフィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシアは中国に対して強い姿勢を示している。中でもフィリピンは、2013年「九段線」には国際法上の根拠はないとして国連海洋法条約に基づくハーグの仲裁裁判所に中国を提訴し、仲裁裁判所は2016年7月12日にフィリピンの主張を認めた判決を下した。同時に中国が造成する人工島は島とは認めないとも判定した。これはフィリピンのみならず、他の関係国にとっても大きな勝利であったが、中国は判決を無視し、依然人工島の軍事拠点化を進めている。

 論説は、フィリピン、ベトナムなどのアセアンの海洋国家が有志連合として海洋ブロックを形成すべきであると述べといるが、ASEANのコンセンサスが得られない以上そうすることが望ましい。

 本来ならば米国が主導権をとるべきであるが、トランプ大統領にはそれが望めない。頼りになるのは米国議会である。テキサス州選出の共和党下院議員Thornberryが、「インド・太平洋抑止イニシアティブ」と称し、アジア太平洋地域に対する国防総省の予算を増やす法案を提出し、下院軍事委員会のAdam Smith委員長(民主党)が支持を表明した。このような超党派の動きは歓迎すべきもので、米軍のインド太平洋司令部の予算が拡充されることで、米国は軍事面からもASEANの海洋国家有志連合を後押しできることになる。

 日本も米国はもちろんのこと豪州やインドなどと協力して、ASEANの有志連合を後押しすべきである。

  
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