世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年5月21日

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 今世界は、猛威を振るう新型コロナウイルス(COVID-19)に注意を奪われ、人々は救済を必要としている。これは、実は、独裁者にとって権力を拡大する夢の好機であると、4月25日付のEconomist 誌が社説で述べている。世界の注意がCOVID-19に集まる中、中国が敢えて南シナ海への支配を強め、香港で民主主義者を逮捕し、香港基本法に穴をあけたのは恐らく偶然ではない。世界各地で多くの支配者が、自国以外に関心を持つ余裕のない今が悪事を働く絶好の時と見て、パンデミックを利用して権力を拡大しつつある。独裁者たちは大規模デモを禁ずるもっともらしい口実を得て大喜びしている。またパンデミックは選挙延期や反対派が選挙運動をできない間の選挙敢行の口実も与えてくれる。COVID-19との戦いには、感染者を突き止め、接触先を辿り、隔離する必要があり、これは通常受け入れられている以上のプライバシーの侵害を意味する。中国やロシアのような国はハイテクを使ってほぼすべての者の身辺を嗅ぎまわっている。このEconomist誌の社説は、COVID-19危機を利用して独裁者がその権限を拡大しようとしていることに警告を発したものである。時宜を得た社説であると言えよう。

nemchinowa/iStock / Getty Images Plus

 COVID-19危機のような緊急事態の場合、行政権が強くなることは、独裁的な国でも民主的な国でも同じである。が、民主主義国では、この緊急事態における行政権力の拡大は危機が終了するとともに終了するだろうが、一方、独裁的な権力者は、それを永続させようとする誘惑にかられることは容易に想像できる。したがって、そういうことに対し、警鐘を今から鳴らしておくことは重要である。

 ただ、COVID-19危機が長期的に独裁政権の強化になるか否かについては、若干疑問に思う。独裁政権は、COVID-19危機で権力強化を図り、それが国民にも受け入れられることはあろうが、より大きな権力には国民もより大きな期待を寄せる。独裁政権がCOVID-19を良く抑え込められれば、国民の期待にも応えることになるが、この感染症はなかなか抑え込みにくい。独裁政権は強さを標榜するが、COVID-19の抑え込みに成果を上げないと、国民は政権の無能を言い立て、政権批判に回る恐れも大きい。

 例えば、ブラジルのボルソナーロ、ロシアのプーチン、トルコのエルドアン、イランのハメネイ体制などは、否定的な影響を受ける可能性が高いと考えられる。もちろん、個々の国の情勢を、関連する諸ファクターをも取り込んで分析する必要があるが、取り敢えずはそう見ていていいように思う。

 かつて14世紀に起きたペストのパンデミック(世界的流行)では、結果として教会の権威が大きく傷つき、世俗的な絶対王政が勢いを増した。COVID-19のパンデミックは、14 世紀のペストとは、桁違いに小さいし、ハイテクによる監視の可能性など新しいこともある。しかし、宗教的権威やそれ以外の権威主義的なものではなく、より科学的なことを重視する風潮が強くなるように思われる。それは個人崇拝的なものを支持するのとは逆の動きになるだろう。

  
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