世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年4月9日

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 コロナウイルス危機について、トランプ政権が国際的なリーダーシップを全く取れていないことに対する焦燥が米国内で強いように見受けられる。国際的な危機の処理には超大国たる米国がリーダーシップをとることが常識であり、それに慣れ親しんで来た言論界の主流の人達にとって、現状は異常としか映らないのではないかと思われる。それもあって、中国が問題を隠蔽し不必要に拡大させたことを遠慮なく批判するとともに、問題の起点が自国にあることを都合良く忘れて国際的なリーダーシップを発揮するが如き中国の行動に不快感を表すようになっているように見える。

donfiore/iStock / Getty Images Plus

 米国がもたもたする間に、危機対応に目途を付けた中国がその体制の優越性を誇る宣伝工作に着手し、イタリア、セルビア、イランなどにとどまらず米国に対してすら支援活動を積極化するに及び、パンデミックの嵐は皮肉にも中国が影響力を拡大して終わるのではないか?そういう中国の一党独裁の体制との対比で米国の民主主義の体制はどういう評価を世界から受けることになるのか?ということが強く意識されているようである。

 ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、デヴィッド・イグネイシャスによる3月19日付け同紙掲載の論説‘The coronavirus is a test of our national character’もその一つである。イグネイシャスは、コロナウイルス危機は世界秩序にとって重要な屈折点となると指摘し、この危機が過ぎ去った後、米国と中国の体制はそれぞれ世界からどの様に評価されることになるのかという問題を提起し、「人々は米国のモデル-騒々しくはあるが危機への対応に多様で分散した結節点が自発的に立ち上がる自由な社会-に信頼を寄せるのか?それとも、中国のモデル-国民に嘘をつくかも知れないが上意下達で比較的速やかに社会を動かすことが出来る権威主義的な体制-を好むのか?」と述べる。また、カート・キャンベル(元東アジア担当国務次官補)とラッシュ・ドシ(ブルッキングス研究所)はForeign AffairsのSnapshot(The Coronavirus Could Reshape Global Order、3月18日付け)に、1956年のスエズ危機がグローバルな大国としての英国の終わりを告げたように、この危機は米国にとってのスエズになるかも知れないと書いている。

 上記イグネイシャス論説の問題提起は正当なものだと思われる。途上諸国やEU周辺部への中国の浸透力を見れば不安を感じる。トランプ政権に的確な政策で国際社会をリードする意欲がなさそうな様子を見ると、その不安は大きくなる。しかし、本当に第二次大戦にも比較し得るような屈折点なのかとなると疑問もある。それは、どれほど迅速に感染を封じ込め得るか、少なくとも米国その他の西側主要国で封じ込め得るかに大きく依存することのように思われる。

 従って、答えはまだ分からない。しかし、1つ確かなことは中国と西側諸国との分断がこの危機により決定的に深まったということではないか。既に、貿易・経済と技術の面で、中国の行き方とこれに反発する米国の相乗作用で分断(ディカプリング)に向かう顕著な動きが継続している。今回の危機を巡る米国とのやり取りの中で、中国は彼等が信ずる体制の優越性をもって意図的に米国を挑発し決定的に分断を深めた印象がある。中国外務省の報道官は「(ウイルスとの)戦いにおける中国に特有の強さ、効率性および速度は広く称賛されている」と言い、新華社はワシントンの政治エリートは無責任、無能力だと口を極めて誹謗した。

 米国と中国の体制のいずれに致命的となり得る弱さが隠されているかが問われている。中国は「分断でも困らない」と言い張るであろう。しかし、中国はその繁栄のために西側諸国との繋がりを欲しており必要としているはずである。それが中国にとっての弱みかも知れない。    

 

  
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