2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年4月1日

 新型コロナウィルスの武漢での感染が、制御の利かない様相を呈し、海外に拡散する勢いを見せ始めた当初、中国は負い目を感じ、あるいは海外からの批判に神経を尖らせていたのではないかと思う。米国が中国からの入国制限に動いたことに過剰反応だと反発したのもそれであろう。

mj0007/iStock / Getty Images Plus

 ようやく感染を封じ込める見通しが立ったかに思われるこの段階に至って、中国は反転攻勢に出て来た。「環球時報」など中国メディアは、中国は新型コロナウイルスの拡散を遅らせることに貢献して来た、中国はウイルスとの戦いに勝ちつつある、しかるに欧米諸国は警戒と対応が緩慢で感染を広げてしまった、との説を流すことに忙しいようである。例えば、3月19日、中国は前日の新たな国内感染が初めてゼロになったこと、34の感染例はすべて海外感染のケースだったことを公表した。

 3月13日、アリババのジャック・マー(馬雲)が、50万個の検査キットと100万枚のマスクを米国に寄贈すると発表した。このことに関して、米国バード大学のウォルター・ラッセル・ミード教授は、3月16日付のウォールストリート・ジャーナル紙で、この危機を利用してグローバルな地位の強化を図りたいという中国の思惑の兆候であると述べている。3月11日に、四川大学華西医院の医師や中国赤十字関係者ら7人の専門家チームが、検査キットやマスクなど医療器材を携行してイタリアに入ったと伝えられることも、その表れだと指摘する向きもある。

 この種の中国の行動を、純粋に国際協力の精神によるものだと受けとれないことには理由がある。上述の中国メディアの宣伝工作もそれである。更に言えば、コロナウイルスの震源地である中国が、事態発生の初期に、問題発生の経緯、中国が講じつつある措置、諸外国および国際機関に対する協力の要請をとりまとめて最高指導者が内外に宣明するという一事を怠ったことがある。それがために、海外に不満と不信が漂う状況ではなかったか。3月 11日、米国のロバート・オブライエン大統領補佐官が「武漢の感染拡大は隠蔽された」「そのため世界は対応までに2週間を失った、その間に我々は中国で起きたこと、および世界で今起きていることを劇的に抑え込めていたであろう」と述べたのは、不信の表れであろう。翌3月12 日、これに反応して、中国外務省の趙立堅(報道官)は、「武漢にウイルスを持ち込んだのは米軍かも知れない......米国には説明責任がある」とツイートしたが、中国の弁護に有用だったとは思われない。

 その後、トランプ大統領は「中国のウイルス」、ポンペオ国務長官は「武漢のウイルス」と言ったが、国内対策の遅れに対する批判もあって、言外に中国の責任を問うたものであろう。

 いずれにしても、ミード教授の論説の主眼は、中国の影響力拡大の危険を警告することにあった。今後、新型コロナウイルスは途上諸国に拡散することになるかもしれないが(もっとも、気温が高い気象条件の影響を受けるかも知れないが)、新型コロナウイルスだけでなく、原油価格の暴落その他の複合的な原因で途上諸国は混乱に陥る。これに乗じて、中国は援助の提供と中国のガバナンス・モデルの優位性(共産党の一党支配体制が欧米流の民主主義よりも優れている)についてのプロパガンダにより、その影響力の拡大を企てる。その結果、嵐が過ぎて見渡せば世界は一変しているかも知れないと、ミード教授は警告する。この主張は誇張が過ぎるようにも思えるが、10日間で病院を作って見せる中国のことだから、この可能性はある。

 そうであれば、西側諸国としては、途上国の混乱の早期収束に協力する他ない。この論説では、西側諸国にその用意があるかを疑っているように読めるが、そうするしかない。新型コロナウイルスについては、WHOを中心に支援の体制を組むことが正攻法であろうが、それとともに西側主要国が枢要な途上国に効果的な援助が出来るかどうかが鍵となろう。

  
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