CDC(米疾病対策センター)は世界でも感染症などに対し権威ある団体として知られている。しかし今回のコロナウィルスによる新型肺炎の拡大を自国内で防ぐことには失敗した。今や米国は中国を抜き、世界一の感染者数を出した国になってしまった。
もちろん新型コロナウィルスは人類にとって未知のものであり、各国とも手探りで対策を練るしかなかった。WHOでさえ明確な対策基準を打ち出すことは出来ずにいる。ただ、CDCは過去にエイズウィルス、エボラ出血熱ウィルスへの対策が高く評価されており、今回も米国民の期待は高かっただけに、なぜこのようなことに、という疑問がつきまとう。
CDCの内部メールを入手
これに対し、独立ジャーナリストによる非営利団体、ProPublicaが、CDCの内部メールなどを入手し、特に初期における団体内部の情報混乱の様子、そしてそれが対応の遅れにつながった可能性がある、と指摘している。
そもそもCDCに中国側から未知のウィルスによる肺炎で死者が出ている、という報告があったのは1月3日とされる。武漢の閉鎖が1月23日。日本は2月1日に中国湖北省や湖北省に滞在していた外国人の入国を原則禁止とする発表を行ったが、この時点で米国は早くも中国全土からの入国禁止措置を取っていた。初期対応としては大げさすぎるほどに迅速だった。
しかし、米国で公式に第一号の陽性患者とされたのは中国系の男性で、1月15日に武漢からワシントン州に帰国、19日に病院を訪れ、その後陽性と診断された。つまり中国からの入国を禁止した時点ですでに米国には隠れた感染が広がっていた可能性がある。
このケースに基づき、CDCは検査を行う対象として「中国、特に武漢周辺に滞在履歴があり」「4日以上発熱、咳などの症状がある」場合あるいはそうした人との濃厚接触者、というガイドラインを定めた。これは日本と全く同じだ。日本の厚生労働省がCDCのガイドラインを参考にしていたのかどうかは不明だが、この最初に定めたガイドライン故にその後の混乱が始まった、とも言える。
2月にはワシントン、カリフォルニアの2つの州で市中感染と見られる患者が発見された。CDCは陽性になった人の関係者などを追跡し、クラスターの存在を突き止めるために人員を増やす必要性を感じ、求人を行ったという。ProPublicaが入手した組織内メールによると「緊急」という題目で「感染者を突き止め、早期発見するための人員が必要」とされている。ここではPUI(Patient Under Investigation=調査する患者)という言葉が使われ、そのデータ管理を行い、一つのドライブにまとめるための人員を急募している。
CDCの職員数は1万5000人で、米国全土をカバーしている。それぞれの州で患者の報告が出始め、対応に苦慮する様子が伺える。1人陽性患者が出れば、その周辺、過去の行動などを詳しく調査する必要があり、地域オフィスの人員ではカバーしきれなくなる、と考えられたのだろう。
同時にCDCでは1月下旬にはウィルス検査キットの開発に着手しており、自前のキットで米国の需要をカバーできる、としていた。結果的にキットの不備などがあり、その後の検査不足につながるのだが、CDCは明らかにコロナウィルスの脅威を実際よりも低く見積もっていたとも言える。