チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年3月15日

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 1993年から27年間上海に駐在してきた私ではあるが、最近の業務状況に鑑み、昨年一杯で拠点を東京に移し、東京から出張ベースで上海の会社を管理することとした。それに合わせてというか、同じタイミングで今年に入ってから新型コロナウイルス問題が表面化した。当初、東京に拠点を移した自分の判断がどれほどタイムリーなものかと自画自賛していた私であるが、日が経つにつれて雲行きが怪しくなってきた。

 そこで、最近両国の状況を見ていて感じたことを文章にしてみた。27年間上海で生活し、今でも日中間のビジネスを行う私の本件に対する感覚は、おそらく日本に生活している方々とは少し違うものになるかもしれないが、一つの問題を色々な視点から見ることは悪いことではないと思う。また、ここでは、私個人の主観だけでなく、Wechatのグループチャットで繋がっている日本と中国に点在している100人以上の日本人ビジネスマン(中国関連ビジネスに携わる)たちと情報、意見交換する中で得た共通認識も踏まえて紹介してみたいと考えている。

(Unimagic/gettyimages)

日本にとっての判断のターニングポイント

 今となって考えれば、日本にとって最初のターニングポイントは、武漢の閉鎖の後に、春節の休暇中の1月27日(春節休暇は1月24日より)より中国が行った海外への団体旅行の中止命令と、旅行会社が航空券とホテルを手配する個人旅行の手配の中止命令であったとみている。それに先立つ1月23日には武漢が閉鎖され、24日には中国国内団体旅行の中止命令があり、25日には、陣頭指揮をとる作業部会のトップとして李克強首相が任命された。要するに、この1月23日から27日にかけて中国が本格的な臨戦態勢の入った時とも言える。

 まず、この一連の動きをどう読み解くかで日本の対応が違ってきたのではないかと筆者は推測する。

 この一連の動きを見て、当時筆者が感じたのは、23日に武漢を閉鎖しても、すでに大半の外地の労働者は、すでに帰省した後のことだろうなということ。すなわち、この時点で新型コロナはすでに中国全土に拡散されていたはずということである。それはなぜか、中国に仕事をしたことのある人なら普通に認識していることと思うのであるが、中国の都市において、工場労働者やサービス産業のブルーカラーのほとんどが、田舎の農村地帯から来た農民工であるからで、彼らは、通常春節が終わる1週間か場合によってはそれ以上前から帰省を始めるからである。

 直前になると、バス、鉄道、航空券のチケットが買いにくくなるからだ。従って、日系企業でも建築の工程管理をするときに、春節の1週間前から工事がストップすることを想定しているものだ。従って、春節休暇が始まる23日に閉鎖したことは、中国政府の対応が何らかの理由で単に遅くに失したか、もしくは、苦肉の策として23日にした可能性もあるとみている。もし、23日木曜日でなく、17日金曜日や18日土曜日に閉鎖すれば、まだ相当数の農民工が武漢にいたはずで、年に一度の楽しみである帰郷を心待ちにしていた農民工の動きをせき止めたら最悪暴動が起きることも想定できたのではないかと推察している。中国で農民を怒らせたら一番怖いということは農民革命を主導した中国共産党は深く理解している。

 従って、23日に閉鎖したということは、すでにこの時点で多くの農民工が帰郷し全国にウイルスをばらまいた可能性が高いと考えるのが極めて自然な判断といえる。おそらく、日本の外務省も同じ判断をしていたのではないか。

中国からの入国制限の是非について

 なぜ中国は、24日には中国国内団体旅行の中止命令をし、27日に海外への団体旅行の中止命令を出したのか?おそらく、第一に団体行動をすることによる団体内での感染と第二に旅行をすることによる感染の拡大を防ぐということかと思われる。それでは、海外への団体旅行の中止命令がなぜ27日になったか? 上記の理由であれば同日付で良かったはずである。推測するしかないが、中国も旅行会社の損失をできるだけ回避しようとしたのか、それとも、まさか、4月の習近平訪日を控えた日本が、中国旅行者の爆買いを期待して待っているので、日本の旅行関係者の期待を裏切らないように配慮したとするのは、考え過ぎか?

 いずれにせよ、その結果は、(3月8日現在で)中国の旅行客が集中する北海道(97人)と訪日中国客のゴールデンルートである、東京(60人)、愛知(68人)、大阪(33人)で感染が多いのであるから、もし24日に中止命令が出ていた、もしくは日本が独自の判断で流入をストップしていたらと思うと残念だ。とは言っても、中国からの団体旅行者は全体の40%程度で、60%は個人旅行であるわけだから、団体旅行だけ抑えても限りがあることは明確であるが。そうした結果、1月27日の銀座は例年の通り中国人観光客で賑わっていたというレポートも見ることができる。(『中国人観光客で変わらぬ活況 団体旅行停止 初日の銀座を歩く』https://urbanlife.tokyo/post/28417/)

 また、ビジネス客と個人旅行の客(中国の場合は数次ビザが緩和されて相当数の中国人がいつでも思い立った時に来日できる状況になっている)は、ごく最近まで湖北省など一部地域を除き、ほとんど制限がなかったのは読者に皆さんもご存知のとおりである。実は、私個人は、自分の勝手な都合ながら、2~3月にかけて複数のビジネスのための中国のお客様の来日を予定していたことあり、上記状況から言って、中国からの団体旅行の中止命令の後に、日本側の判断でビジネス客と個人旅行の客についても制限がなされる可能性があるのではないかと心配していた。

 結局、日本政府からの制限は発動されなかったが、日本の企業側が中国からの来日者との会議が社内ルールで不可となったり、中国側が遠慮したりして全ての来日予定はキャンセルとなった。ただ、今、思えば、その時に台湾のように早期に、中国からの渡航を制限していたら、これほど感染者が増えず、結局早めに収束したのではないかと、多くの人が感じているのではないかと思われるが、後の祭りである(台湾は、中国人については、1月26日より湖北省及び湖北省以外から中国人の中国からの入国を制限し、外国人についても、直前14日以内に中国を訪問した外国人についても入国制限している)。

配慮か忖度か?

 最近の日本での報道を見ると、日本政府は4月に予定していた習近平来日のへの配慮から、台湾のような措置は取れなかったと言われているが、もし、それが本当であるとすれば、日頃中国とビジネスしている我々から見ると、さすがに忖度しすぎではないかと感じられる。中国が自ら団体旅行の中止命令を出し、個人旅行を制限しなかったのは、むしろ中国の日本への配慮とも言える可能性もあり、そうした状況下、日本が自国民の命を守るために制限措置を打ちだしたとしても中国も、文句はないはずで、もし逆の立場であれば中国は制限していただろうと思われる。

 反対に心配してしまうのは、今回の動きが中国側から日本が尊重とか配慮ではなく、中国に気を使って忖度していると解釈された場合、日本側が弱みを見せたことになり、今後の交渉が不利になりやしないかということである。外交の世界はビジネスとは違うのかもしれないが、ビジネス交渉の感覚から言えばそうである。もう過ぎたことはしょうがない。万が一、今後、又中国から新たなウイルスが拡散した場合、是非、今度は忖度せずに、果断に入国制限するなど早急な措置をとってもらいたい。

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