2024年4月23日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年3月15日

中国が迅速、有効に対応できた理由

 なお、今回中国が迅速かつ有効と思われる対応ができた背景には以下の諸点があるのではないかと考える。

1. まず、中国のリーダーの危機感が直接現場の責任感に反映されていることがあるのではないか。中国では、古より皇帝の徳に問題があると国が乱れ、天災、疫病などを誘発すると考えている。それが易姓革命の根拠になっていることは歴史に詳しい方であればご存知と思うが、現在の中国、一方で、超大国米国とは貿易戦争を構え、その中での疫病である。トップの危機感がいくばくのものかは想像に難くないであろう。

2. 一党独裁ゆえの超法規的な対応のしやすさが考えられる。今回の中国の一連の対応はどのような法的根拠の裏付けで行っているのかわからないが、中国共産党は、憲法の序文において実質的に国家の上に位置されており、憲法の上位に君臨すると揶揄する人もいる中で、非常時においては、何よりも共産党の指導が優先されることに違和感は感じられないであろう。従って、党は現行の法律との整合性を細かくすり合わせすることなしに、今やるべきことを実行すれば良いわけであろう。

3. すでに完成していた監視システムがある。全国に張りめぐされた監視カメラとそれをつなぐビッグデータのネットワークは、今回の人民の行動履歴を分析し、感染者との接触のリスクを直ちに解析することに成功した。また、迅速に対応する中国のSI能力の強さは言うまでもないであろう。

4. 整合的なサプライチェインの存在と物流ネットワークがある。世界の工場であるので、対策に必要な物資はほぼ自給自足できる。また、レストランの店舗営業を禁止にしても、デリバリーシステムが整っているので、レストランは営業を継続し消費者に暖かい食事を届けることができる。

 とはいえ、やはり物事は両面から見ないといけないもの、上記の背景はそれぞれ反面のリスクを抱えている。

 まず、第一に、一党独裁の権力集中があるからこそ、ウイルスの拡散当初に情報統制により、正しい情報が人民に伝わらなかった可能性、それゆえに初動を誤り対応が遅れてしまい、全国に拡散してしまった可能性も指摘されているところ。そもそも、なぜこのようなウイルスが中国から出現するのか、原因は解明されていないが、もしかしたら、体制そのものの矛盾に関係している可能性もある。もし、ウイルスが発生しても、初動を誤ってなければ、その後のダイナミックな対応も必要なかったわけである。反対に対応にもたついている印象のある日本であるが、そもそもウイルスに拡散源にはなっていないし、これだけ後手後手の対応と批判されても死者の数は他国と比べて多くない。運用面で安定した衛生的な日本のインフラ環境と関係があるのは間違いない。

 第二に、超法規的な対応がしやすいということは、ウイルス対策ならまだしも、もしそれが日常的に行われるとしたら中国の法制度が混乱するというリスクを孕んでいるということになる。実際、そうした点は実態面でもかねてより指摘されているところである。

 どんな制度でも両面あるわけで、中国人も日常的にそのメリットを享受している反面、見えないところで、不利益を被っている可能性もあるわけである。最終的には中国人が自分で選択するべきもので、単純な良し悪し評価するべきでない問題とは思うが。


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