世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年4月15日

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 新型コロナウイルスへの対応には強力な指導力が必要である一方、それを悪用した権力の濫用、さらには統治権の全権委任などの独裁化が懸念される。

JIRAROJ PRADITCHAROENKUL/iStock / Getty Images Plus

 例えば、ハンガリーの新たな法案では、3月11日に出された非常事態宣言を無期限に延長し(終了は政府の判断による)、この間、政府に政令による新たな立法と既存の法律の停止を認める。更に、パンデミック対策を妨害していると認められる者、および偽りの情報を拡散していると認められる者には刑罰を課すことを可能とするものである。政府は先例のないパンデミックの脅威に対抗するために必要な措置だと説明しているが、その内容は憲法の枠組みを逸脱するものと見られ、統治の全権をオルバン首相に委ねるものに他ならない。

 この法案の可決には3分の2の多数を必要とするが、与党フィデスは所要の多数を擁しており、法案は今週中に可決されると見られている。当然のことながら、野党やNGOは濫用を予想し、法案はオルバンに白紙委任するに等しいと抗議し、パンデミック対策といえども法の支配が守られるべきことを主張している。

 ハンガリーのケースとは様相を異にするが、東欧やバルカンにはパンデミックを理由に(あるいは口実に)政府の規制権限を強化する動き、具体的には人々を監視する色彩のある措置を導入しようとの動きがあるようである。スロバキアでは3月25日、感染した人の動きを追跡し自己隔離の要求に従っているかを確認する目的で通信会社の位置情報に保健当局がアクセスすることを認める法案を議会が可決した。これはシンガポール、韓国、台湾が採用した措置に倣ったものだと当局者は述べている。ポーランドの首相は自己隔離を求められている人が本当に自宅待機をしているか確認するために「電子的解決策」を導入すること考えていると発言。セルビアの大統領はイタリアの電話番号を持っている人の行動を追跡していると述べた。

 エコノミスト誌(3月28日号)の社説‘The state in the time of covid-19’は、パンデミック対策のため西側諸国が外出規制とビジネス閉鎖を行い、経済の下支えのために巨額の資金を投入し、更に韓国とシンガポールの例に倣えば医療と通信のプライバシーすら危うくしかねない状況を観察して、「これは第二次大戦以降で最も劇的な国家権限の拡大である」と書いている。政府は果敢に行動せねばならない、しかし、危機に際して一旦手にした権限を政府は放棄しようとしないというのが歴史の教訓である。「危機はより大きな権限と責任を持った永久に大きな国家、そしてそれを賄うに足る税金をもたらす」と社説は警告する。その上で、社説は、最大の問題は監視(surveillance)の拡散であり、パンデミックが終わった後も監視を利用することの誘惑にかられることだと指摘する。

 国民の行動を監視し、医療や行動のデータを収集することはパンデミック対策には有効であるに違いない。しかし、ハンガリーのケースは論外として、危機に際する緊急措置の恒久化を阻止すること、いわば政府の「焼け太り」を阻止すべくそれぞれの国民が注意を怠らないことが求められているのであろう。    

  
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