2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2020年4月1日

 「感染症に対して日本は民主党政権時に新型インフルエンザ等対策特別措置法を制定し、対策準備と訓練もやっていた。それが新型コロナウイルスの初動ではほとんど生かすことができなかった。危機において強い権限をもって政府が対応できる政治的風土が日本にはまだ育っていない」。日本大学危機管理学部の福田充教授は指摘する。日本の初動対応を振り返ってもらった。

(Stadtratte /.gettyimages)

 危機管理の鉄則として福田氏は「最悪の事態を想定すること。空振り三振はしても、見逃し三振してはいけない」と話す。今回の新型コロナウイルスへの対応では、初動において日本政府が強力な危機管理の施策を打つことができなかったという。

 その要因のひとつが「初期において新型コロナウイルスの致死率が相対的に低かったこと」と指摘する。「新型インフルエンザ等対策特別対策措置法は、強毒性の新型インフルエンザ(H5N1)などのウイルスのパンデミックが想定されている。政府、内閣官房や厚生労働省の委員会ではウイルスのワクチンをどのように生産するか、ワクチンができた時にどのような優先順位で人に摂取させるか、といったことまで検討されていた。ところが、新型コロナウイルスは日本で初感染者が出た直後の時点で致死率が0.5~3%ほどという見通しが出された。強毒性の新型インフルエンザという高レベルの脅威に対する準備は進められてきたが、致死率がこの程度という中レベルの脅威への想定や対策が弱かった」

 よって致死率の高い強毒性の新感染症を想定していた新型インフルエンザ等対策特別措置法を、日本政府は初動から使用することをためらった。「この新型インフル特措法は、外出規制やイベントの中止などを、法的根拠をもって要請し、私権を制限できる非常に強い法律で、いわば伝家の宝刀です。それに基づいて緊急事態宣言を出す、ということは野党やメディア、社会から大きな批判を浴びることになり、さらに感染症対策が遅れるリスクもあった。長年の危機管理へのタブーにより、政府は手足を縛られた状態で危機対応をせねばならなかった」

 ただ、「こうした状況こそ、危機管理の鉄則に基づき最悪の事態を想定するべき。初動において時限付きの最大限の強い規制をして、時間にそってそれを徐々に緩めていく戦略もあった」と強調する。政府は、大規模な社会統制により、経済が停滞し不況が発生することを避けたいのはよくわかる。しかし、初動で強力な感染症対策を打っていれば、大規模な感染拡大を防ぎ、経済的ダメージも最小化できたかもしれないのだ。

 結果的に、政府は新型インフルエンザ等対策特別措置法ではなく、感染症法による「指定感染症」として対応した。その後、感染拡大が深刻化したため、国会の審議をへて新型インフルエンザ等対策特別措置法を改正し、新型コロナウイルスにも対応できることとなった。「新型コロナウイルスを最初から『新感染症』に指定していれば、新型コロナウイルスを新型インフルエンザ等対策特別措置法に適用することはできた。遠回りをしたことで、1か月対策が遅れた」と指摘する。


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