2022年10月2日(日)

Wedge REPORT

2020年3月29日

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 新型コロナウイルスの影響で国と埼玉県が自粛要請したにもかかわらず、格闘技イベント「K-1 WORLD GP」がさいたまスーパーアリーナで開催された。これはたとえ新型インフルエンザ等対策特別措置法による「緊急事態宣言」が出されたとしても、イベントを止めることはできなかった。「日本の現行法体系によって強制的に外出や集会を禁止することはできない」。内閣法制局長官や最高裁判所判事を務めてきた弁護士の山本庸幸氏は指摘する。

3月の3連休には、〝自粛疲れ〟もあり、花見客でにぎわった(つのだよしお/アフロ)

 新型インフルエンザ等対策特別措置法については、「緊急事態宣言」に関する「私権の制限」が話題となった。これに対し山本氏は「罰則の部分を見ても、『特定物資を隠匿し、損壊し、廃棄し、又は搬出した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金』と『立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者は、三十万円以下の罰金』のみ。ほとんどのことは要請しかできない」と指摘する。

 感染症拡大防止に向けての移動制限に対してヨーロッパや東南アジア諸国では罰金や禁錮といった罰則が設けられているのに対し、日本の特措法はそうした条項がない。諸外国と同様にすべきかどうかは議論が求められる。しかし、山本氏は「どのような罰則を付けても、守らない人は必ず出てくる。事実、道路交通法違反による反則金を払わない人が違反者の1割もいる」と現状を解説する。罰則で人は動くのか細かい検証が必要のようだ。

補償と合わせた「中止命令」は可能なのか

 強制力や罰則がないものの、再三の要請を受けても格闘技イベントを〝強行開催〟した主催者側には資金繰りが苦しく運営を強いられている部分もあったという。こうした状況に対し、責任関係があいまいな「要請」ではなく、法整備を講じて「命令」という形にし、イベントの中止や延期への補償が必要であるという声も出ている。

 これに対し山本氏は「これは地震や台風などの天災のようなものだから、皆でその負担に耐えるのが基本である。それでもこれは放っておけないという事案が必ず出てくるので、国や地方自治体が『補償』するというよりは、『救済』することを考えなくてはいけない」と主張する。

 「現行憲法には『緊急事態条項』が設けられていないが、これは基本的人権の尊重と旧憲法時代の反省からである。したがって、公共の福祉の観点からどこまで個人の行動を制約するかということが問題となる。その点から、新型インフルエンザ等対策特別措置法による緊急事態宣言で危機を呼び掛けることは一つの施策だ。個人の危機意識を高めていくしかない」としている。もっとも、「今の程度の脅威であれば禁止はできないと思うが、更に事態が進んで致死率が高くなり急速かつ広範囲な蔓延となれば、公共の福祉の観点から、禁止ができないわけではない。ただ、これは憲法学の未踏の分野ではある」とも付け加える。

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