2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2020年3月29日

「地方分権」の下での公衆衛生行政

 新型コロナウイルスに対しては、北海道の鈴木直道知事が「緊急事態宣言」を出し、大阪府の吉村洋文知事が大阪と兵庫の往来自粛を呼びかけるといった国の要請に伴わない〝独自〟の判断が起きている。「これは公衆衛生の最終責任者を都道府県知事としている地方分権の本来の趣旨に沿った望ましい動き」と指摘する。

 「1993年に『地方分権の推進に関する決議』が衆参両院でなされ、これに基づいて地方分権改革一括法が成立した。それ以来、感染症への対応行政も、都道府県知事らが責任をもって行うことになった。国は技術的な指導はしているものの、基本的には地方公共団体の裁量の下で行われることになった」と解説する。

 事実、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)では、感染症患者の就業制限や入院措置、建物への立ち入り制限、交通の遮断などは全て都道府県知事が実施主体となっている。

 ただ、今回の感染症の全世界的かつ急速な拡大といった緊急事態に対しては、国と地方が一体となった措置が必要となる。「公衆衛生の方向性をどのようにしていくかといった折り合いをつけていくのが国の仕事。組織の枠組みや、ガイドラインを作成するといったことが求められる」と強調する。

日本版「CDC」は機能するのか

 こうした感染症への危機対応への注目が高まる中で、議論が沸き起こっているのが、米国などで政府とは別組織として感染症対策の陣頭指揮をとる疾病対策センター(CDC)の〝日本版〟の設立だ。

 「現在の日本の政治状況や行政機構の常からすると、果たして実効性のある効率的な組織ができるか疑問」と指摘する。「国や地方は財政改革のために国公立病院の独法化や統廃合、保健所の整理を進めている。そういった状況で十分な予算と人員が確保できるのか、またこれら既存の機関との調整をどうするのか、難しい問題がある。それらをうまく解決して設立したとしても、組織として世間から評価され、理想とする運用を果たすことができるようになるには10年はかかるだろう」

 また、現在は感染症の拡大という危機に直面していることから、多くの国民が必要性を強く感じているものの、非常事態でない時の運用も課題だという。「優秀な人材を雇い続けるには、それなりの待遇も必要になる。国から予算を出し続けることが有用であるのか、という声は出てきてしまうだろう」。活用されない〝ハコモノ〟にならないよう気を付けなくてはならない。

  
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