アメリカのドナルド・トランプ次期大統領が、大統領選挙の数日前に報じられた世論調査は「ふてぶてしい選挙妨害」だったとして、アイオワ州の地元紙デモイン・レジスターと親会社、世論調査を担当した会社を相手に、損害賠償などを求める裁判を起こした。
トランプ氏は金銭的な損害賠償のほか、弁護士費用と、世論調査の公表の際に「依拠したすべての情報の開示」を求めている。
デモイン・レジスターは11月2日、アイオワ州で民主党候補のカマラ・ハリス副大統領が勝利する見通しだとする、大統領選の世論調査の結果を報じた。同州は共和党が圧倒的に優勢な州の一つ。
トランプ氏は16日の記者会見で、同紙を「腐敗している」と批判。その後に同州の裁判所に提出した訴状では、有名世論調査会社の社長だったJ・アン・セルザー氏が「ふてぶてしい選挙妨害」を行ったとしている。
同氏の世論調査は、アイオワ州でトランプ氏が3〜4ポイント差で敗れる見通しだとしていた。他の世論調査は異なる結果を示しており、多くのアナリストはセルザー氏の予想に困惑した。同州では2020年大統領選で、トランプ氏が8ポイント以上の差をつけて勝利していた。
この世論調査が公表されて1週間もたたない内にあった大統領選では、トランプ氏が13ポイントの差をつけてアイオワ州を制した。
セルザー氏は選挙後すぐに引退したが、世論調査とは無関係だとしている。
トランプ氏は16日の記者会見で、「私の考えでは、これは詐欺行為であり選挙妨害だ」と主張。「これはやらなくてはならないことだと思っている」、「多くの金がかかるが、報道機関を正さなければならない」と述べた。
訴状では、世論調査の結果をセルザー氏が意図的に、ハリス氏に有利なように動かしたと指摘。「ハリスに関する世論調査結果は『外れ』だったのではなく、2024年大統領選の結果に影響を与えようとした試みだった」と訴えている。
また、一般的に「左翼の世論調査会社」は結果を操作し、「広く受け入れられている世論調査の方法」を用いていないと非難している。ただ、他の世論調査会社は特定せず、こうした主張を詳しく述べてもいない。
報道は正しかったと新聞社
デモイン・レジスターの広報担当ラーク=マリー・アントン氏は、世論調査の各種データや、アン・セルザー氏による技術的な説明をすでに公表していると、BBCが提携する米CBSニュースに説明。今回の世論調査が「アイオワ州におけるトランプ大統領の選挙当日の最終的な勝利の差を反映していなかった」ことも認めているとした。
そして、「私たちはこの件での自社報道は正しかったと考えており、訴訟は道理にかなうものではないと信じている」と述べた。
非営利団体「報道の自由財団」のアドボカシー・ディレクターのセス・スターン氏は、この訴訟によって、「ジャーナリストらは次期政権が自分たちを追及する口実を探しているのではないかとビクビクする」ことになるとXに投稿した。
トランプ氏はこれまで、米報道機関のCNN、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズを訴えている。また、2024年大統領選の選挙運動終盤には、ハリス氏のインタビューの編集の仕方をめぐってCBSを訴えた。同局は訴えを退けるよう裁判所に求めている。
トランプ氏はつい先日、米ABCニュースの看板キャスターの発言によって名誉を毀損(きそん)されたとして起こした訴訟で、同局から1500万ドル(約23億円)の支払いを受けることで和解が成立したばかり。この金銭は、トランプ氏の大統領引退後に設立予定の「大統領財団および博物館」への寄付とされる。
ABC看板キャスターのジョージ・ステファノプロス氏は、今年3月放送の下院議員へのインタビューの中で、トランプ氏について「レイプの責任を負う」と認定されたと誤った発言をした。
実際には、トランプ氏が被告となった昨年の民事訴訟で陪審は、作家E・ジーン・キャロル氏に対する「性的暴行」についてトランプ氏に責任があると判断した。ニューヨーク州法は「性的暴行」に関して特定の定義をしている。
ABCはまた、ステファノプロス氏の発言を「遺憾」だとする編集側としての注釈を公表。トランプ氏の弁護士費用として100万ドルを支払うことに同意した。
大統領1期目の選挙運動までさかのぼる、米報道機関に対するトランプ氏の敵対的なアプローチは、2期目にも引き継がれると予想されている。